全国を旅していると、
そういうシーンに出逢うことがしばしばあった。
まったく気にも留めてなかった山村や漁村へ足を踏み入れると
不意に集落が現れ、
暮らしの営みを目の当たりにする。
こちらとしては非日常の感覚のまま
偶然訪ねた訳なのだが、
その場所にとっては
普段と変わらない淡々とした日常である。
その見えない「ズレ」に戸惑い、
感覚は揺らぐ。
パラレルに存在する日常を知覚する。
新たな世界を知るとは、
そういうことなのかもしれない。
それが、
「DAILY
TOURISM/日常観光」
の編集の在り方だった。
|
|
……というのは、表向きの編集方針。
この南房総編の本を作る前までに
『房総カフェ』シリーズを4巻まで自費出版していた
(加えて、メジャーデビュー本の『千葉の海カフェ』[書肆侃侃房刊]も上梓している)。
実を言うとこの時、
「カフェ本」なるものにもう辟易としていた。
会う度会う度に、
千葉で一番のカフェはどこですか?
と聞かれる。
もう耳にタコができるくらい。
カフェの人、と見られるのもうんざりだった。
先日の「喫茶と読書
ひとつぶ」さんとの
会話の中で話題になったことだか、
カフェを過ごすことに対する主体性を失った
「映え採取」「グルメ巡り」
を助長するような本を、
私は作りたい訳ではない。
で、カフェ本を作るのをスパッとやめた。
当初の想い通り、
店、ものづくり、生業、暮らし、地域といった
間口の広い話題から
その人や、その生き様にフォーカスしていく
そんな編集の原点に立ち帰りたい。
カフェ本への反骨精神から生まれたのが
この「DAILY
TOURISM」だった。
|
|
この『BOSO DAILY
TOURISM』をきっかけに
「North Lake Cafe & Books」さんと
「タンジョウファームキッチン」さんで
写真展「房総へ」開催の運びとなった。
また、2019年に房総台風が襲来した際には
「『今、寄付する』支援、『少し未来に行動する』支援」
プロジェクトを実施。
これまでカフェ本を作っていた時とは
明らかに違う房総の文脈が生まれた。
また、昨年からは南房総編の
オンライン販売を敢えて停止し、
勝浦朝市や知り合いの催しなどの直販に特化する
「本の届け方」の在り方も変化球的に変えてみた。
おかけざまで、私自らの全力の熱量で
最後の最後まで本をお渡しすることができた。
これもわざわざ足を運んでくださった
みなさまのおかげであります。
今のところ、経費面と、
閉店になったお店があることなどの理由から
単純な増刷は難しい。
ただ、和田浦の捕鯨とその食文化、
房州うちわや木更津の箒といったものづくり、
勝浦朝市という地域伝統のマーケット、
未来へと繋げる糀職人の挑戦など
後世に伝承すべき「房総の文化」は
何かしらの形として
残していけたらという気持ちがあるのも事実。
しばらく模索していきたい。
そして次に出す最新号こそ、
これまでのカフェ本の壁を越えていきたい。