海の気配がコーヒーカップの中で
微かにゆらめく。
それは水平線の上に映し出される
残照のように儚く、美しい。
カフェに宿る心地良い緊張感。
それは房総半島の青い風土と、
店主の暮らしぶり、生き様が
一体となってこの場に蓄積している
なによりの証拠だった。
店主との何気ない会話の後に眺めた
窓辺を染め上げる刹那の風景。
港町のカフェで見かけた、
地元客の日常のリズム。
かけがえのない時間と空間は
あなただけの一期一会に満ちている。
◆
漁港の前を駆け抜けると、むっとした青魚の匂いが鼻腔に入り込んできた。濃厚な港町の存在感は、私にとっては旅の空気感。しかし、カフェに集う人たちの多くはあくまでも普段の生活の一部である。その感覚の微妙な〝ズレ〟が、ほど良い緊張と心地良さをもたらしてくれる。それは、旅先のカフェの醍醐味。
銚子を後にし飯岡まで来ると、海岸線は南に向かって、延々と緩やかな弧を描くようになる。九十九里浜を過ぎゆく海風は、銚子のそれとは明らかに異なり、色も、匂いもプレーンなものだった。淡々と続くビーチに、ただ立ち尽くす。サーファーはプレーンの中の変化を巧みに見つけて、海原と一体化していた。
御宿・勝浦まで南下した辺りから、海辺の風景は急激にヴィヴィッドな色彩に変化する。入り組んだ小さな入り江と常緑の木々が、きらめくような光のコントラストを織りなす。
房総半島の南端まで辿り着いた時には光は弾け、海原の彼方へ旅立ってゆく。そしてこの最果ての地には、その向こうの世界に想いを馳せながら、光の残り香をカフェで燻らせる人たちがいた。
太平洋に別れを告げ、半島の西海岸に回り込む。内房の海は波穏やかな東京湾。ふと、対岸の湘南、東京と対比する自分が居ることに気が付く。水平線の彼方の世界から、ジパングに引き戻された感覚。その中に、茜色の空に浮かぶ富士山のシルエットがあった。
千葉県の姿。それはベッドタウンであり、印旛の平らな田園であり、食を育む北総大地であり、半島内陸の里山である。だが、三方を海に囲まれた〝海の半島〟こそ、千葉県を代表する姿であるのは間違いない。そしてその海は、驚くほどの多様性に満ちている。その豊かな海の表情と、店主の生き方が溶け合っているからこそ、房総半島のカフェは、ここにしかないカフェなのだ。
「千葉の海カフェ」
○INTRODUCTION
カフェの旅に出る理由
Sand CAFE
○第1章 銚子、飯岡海岸
gris
curoccho'cafe
chocolicious
Maka Le'a
Flavors Cafe
Pancake Cafe Milky Way
コラム 美しき飯岡の海辺に輝く希望の光
○第2章 九十九里海岸
cake gallery 99
cafe fuchsia a cote de la mer
mele
パン・カフェ Pensee
KUSA.喫茶 自家焙煎COFFEE+PAN.
SOTOBO-STAND UZU
Emi cafe & restaurant ICHINOMIYA
PORT OF CALL Taito Beach 店
コラム 朝日を浴びるサーフタウンから
○第3章 東海岸~外房
kitchen HANDY
Splash Guest House
Banzai Cafe
お茶の間ゲストハウス&カフェ
Lani
earth tree cafe
わだぱん
コラム 自然と寄り添う暮らし そこにある美しさ
○第4章 南海岸~南房総
Strawberrypot
シラハマアパートメント and on cafe
ビーチスタイルストア 波音日和
AWA cafe
INN & CAFE ONE DROP
CAFE TSUMUGI
SEA DAYS COFFEE
HAMASAKI COFFEE
Le risa
コラム 海の美しさが映し出す土地の暮らしぶり
○第5章 西海岸~内房
くじらCAFE
Cafe & ガラス工房 海遊魚
cafe edomons
Cafe GROVE
コラム 房総という感覚と出会うカフェクルーズ
○MAP
○索引
○あとがき