●『房総カフェⅣ 記憶の履歴書』が完売しました

おじいさんの大正時代の洋館をこつこつとリノベーションしている、そんなオープン前の作業から取材に伺った館山市のカフェ「TRAYCLE」。

 

裏表紙にはトレイクル2Fからの風景を載せた。記念撮影する観光客がひっきりなしに訪れる北条海岸とは違い、築港前はどこか場末感漂う波止場だ。午前の光が差し込むうちから夜の帳が下りるまで観察しているうちに、すっかりここの日常風景が気に入ってしまった。

 

大きな刺激による麻薬的な興奮を得るよりも微かなことを知覚する余地のある現場の方が、精神的な充足感が湧き上がってくる気がする。館山の海辺という「いかにも」な観光地で、不意に遭遇する現地の日常。「記憶の履歴書」というテーマのカフェの本を作った経験が、この後発行することになる『DAILY TOURISM』シリーズの発端だったのかもしれない。

 

そんなトレイクルさんが最後の納品先となった。トレイクルさんのほかにも様々な方たちに販売のご協力をいただいた『房総カフェⅣ』。本に込めた熱量を届け続けてくれた皆様に、そしてページを開き実際に現地に足を運んでくださった読者の方々に、改めて感謝申し上げます。

 

これで1から4巻まで、すべての『房総カフェ』は完売です。増刷の予定はありません。

 

なお、表紙になっている大網白里市のカフェ「ミナモ」さんは、惜しまれつつ昨年末に閉店された。手帖に書き綴られたカフェへの夢は創業100年を迎えたご実家である金物屋と溶け合い、ご家族の思い出と共にカフェ空間として生まれ変わった。様々な記憶の宿り、ベランダからの光がそれをそっと照らしているかのような、そんなカフェだったことを今でも鮮明に覚えている。それなだけに、改めて記憶を留める本の役割を再認識した号でもあった。