西日本一周の旅[2]九州・前半

一昨年、昨年に続いて今年も車中泊しながらの西日本一周の旅へ。前回以上に本屋さんからの口コミで旅程が組み上がっていく面白い展開でした(※Facebookに掲載したものをそのまままとめたものです)

「西日本一周の旅…点景 2018.5.15」

 

ナツメ書店&sleep coffee(福岡市)

六本松蔦屋書店(福岡市)

多津田食堂(福岡市)

ブックスキューブリック(福岡市)

美美(福岡市)

福島温泉つばき荘(長崎県松浦市・福島)

土谷棚田(長崎県松浦市・福島)

 

・ナツメ書店&sleep coffee

海の気配を感じながら、朝のカフェオレを一杯。夏を思わせる陽気に、光を抱いた涼やかなコーヒーの香りが、澄んだ時を演出してくれます。

きさくな奥夫妻が出迎えてくれたお店。旦那さんが眼鏡店を改装したカフェを、奥さんの方が隣で本屋さんを営まれています。清々しいひとときに導かれてか、またしても金子みすゞの本を購入。解説と、リリー・フランキーのエッセイ付『永遠の詩01 金子みすゞ』(小学館)。頁をめくるのが楽しみ。

鉄路の終着駅の向こうにあるお店。海を臨む車窓を楽しみながら列車で訪ねたら、また違う旅情を味わえるんだろうな

 

・六本松蔦屋書店

お店の開業前に、旅のコンシェルジュである森さんからご連絡いただいたのがきっかけで、『房総』シリーズを置いていただいています。念願叶ってようやく訪問することができました。

旅コーナーの一角に全国のリトルプレスを集めた棚があり、このような感じで並べていただいているのです。ありがとうございます!

ちなみに森さん、実は幼少期に10年ほど千葉市に住んでいたそうです。そしてなんと「袋から押し出して、ご飯にかけて食べましたし、そのままでも食べましたよ」と、ピーナツハニーの経験者でした(笑)

話がコーヒーやカフェに及ぶとあまりの詳しさにびっくり!コロンビアのあそこのお店がおいしい、あそこの国では屋台で売りにくるね、実は韓国のカフェ事情が熱い・・・などなど、アジアやヨーロッパはもちろん、中南米やアフリカに至るまで世界各国を渡り歩いてらっしゃいます。森さん、本を出されたらいかがですか?と話を振ってみると、「実は蔦屋書店のコンシェルジュ同士でZINEを作ろうと話をしているんです。一周年の時に出せたらなと」。おおなんと!各ジャンルのコンシェルジュによる自主制作本、これは一度読んで見たい。

 

・多津田食堂

こちらの行列と、はす向かいのパン屋の行列、どちらを選択するか。そうして思い切って入ったカウンターだけの食堂には大学生(と思われる若い人たち)がずらり。ボーリューム満点のワンコイン定食。『創業昭和38年』と書かれた札が下がっている。食欲そそるちょい辛の豚みそ煮込み定食、がっつり食す。食後「おー食べた!」という満腹満足感に満たされる。ジュウジュウ音を立てた鍋のまま出すメニューを頼む人が多く、こちらも名物なのかも。スキレットなどと小洒落たモノではないのがまたそそられた(笑)

 

・美美

キューブリックで購入した『モカに始まり 産地紀行編』(森光宗男著 手の間文庫)を携えて2Fの通りを見下ろす窓際の席へ。

『この35年で学んだことは、「手の中にこそ真実がある」「小さいほど感動を生むことができる」そして「繰り返すこと」でした。それにはネルドリップで「滴一滴」とお湯を落とすように、ひとつひとつのことは一期一会と知り、大切に向き合うということです。J.S.バッハが神にも祈る思いで音符をおいたように、モノゴトに精進するという条件がつきます。』

森光さんの言葉をかみしめるように、ハラールモカのデミタスをゆっくりと戴く

 

・土谷棚田

美しいものを前にすると、人は沈黙するのでしょうか。

左手に伊万里湾、正面に松浦沖の海を臨む「土谷棚田」の夕景。10人ほどいたカメラマンや観光客、カメラを構えたり、折りたたみチェアに腰かけたりして、じっと、連続している微かな時の流れを、その風景に見ている。その場の雰囲気があまりにもよくって、私はsonoda coffeeの豆で野点珈琲を楽しみつつ、日暮れまでここで佇む。海から吹き上げてくる風も気持いい。ああ、なんとおいしいコーヒー。

 

「福島」は福島という「島」。橋で繋がっています。土谷棚田は約15ヘクタールの斜面を明治から昭和初期にかけて開墾されたもの。一つひとつ石を積み上げた石垣、地形に沿って曲線を描く田んぼ。小さな仕事を積み重ねた結晶。コーヒーも、本もそうか。

「西日本一周の旅…点景 2018.5.16」

 

だるま食堂(長崎県平戸市)

松浦史料博物館(平戸市・平戸島)

道の駅生月大橋(平戸市・生月島)

大敷(平戸市・生月島)

大バエ灯台(平戸市・生月島)

春日集落(平戸市・平戸島)

カトリック田平教会(平戸市)

 

・だるま食堂

朝ちゃんぽん(+小ライス)。平戸魚市場の向かいにあって「にいちゃん、何する~」ととっても気さくなお店のおばちゃん。美味しく味わう

 

・松浦史料博物館

たまたま伊能忠敬の企画展を開催中。長崎県を中心とした伊能大図を拝見。千葉県香取市の誇る偉業に改めて感嘆する

 

・道の駅生月大橋

完全無添加のドビウオ100%のアゴ出汁がフツーに売ってるのでついまとめ買い。店員さんがオススメのランチスポットをあれこれ教えてくれた

 

・大敷

その口コミスポットの一つ。漁港に臨む簡素な店構えだが、暖簾を潜るや漁師さんとおぼしき方たちが食事中。「くじら入刺身定食」「あごだしうどん」など魅惑的なメニューが並ぶがここは「刺身定食」を注文。「今日は『クロ』と『ヒラス』の刺身です」とのことだが何のことやら?よくよく聞いたら「メジナ」「ヒラマサ」のことだそう。コリっとした小気味好い歯ごたえにびっくり、イカも然り。これを地元のあまーい醤油につけて食べる。店のおばちゃん、「島で醤油作ってるのよ」と醤油も一押し。そればかりか島のビュースポットなどを教えてくれた。なんだか生月島の人たち、島愛が感じられてこの雰囲気とてもいいなー

 

・大バエ灯台

それはまるで海へと続く階段

生月島、平戸島。キリシタンや捕鯨の歴史、急傾斜を切り拓いた棚田や肉牛の放牧・・・様々な過去、暮らしぶりが重なり合って、目の前にある。美しい島

 

・カトリック田平教会

 

ゴウゴウと吹き荒れる強風の中、教会の扉を開けて中に入ると、何かが吸い込まれるかのように、ふっと場の空気が変わった。一気に訪れる静寂。仄かにアロマが香っている。過酷だった歴史や暮らしを、優しく包み込むかのような安堵感、そして微かな緊張

「西日本一周の旅…点景 2018.5.17」

 

なみのうお(長崎県大村市)

ひとやすみ書店(長崎市)

かんざき食堂(長崎市)

川端まんじゅう店(長崎市)

眼鏡橋(長崎市)

大浦天主堂(長崎市)

珈琲人町(長崎市)

カリオモンズコーヒーロースター(長崎県時津町)

小地獄温泉館(長崎県雲仙市)

 

・なみのうお

大村湾に臨むカフェ。写真は一見優雅に見えますが、急遽原稿修正作業。仕事してました

 

・ひとやすみ書店

昨年に続いての訪問。店主の城下さんがもう少しすればいらっしゃるとのことで、喫茶スペースで『ゴールディーのお人形』(M.B.ゴフスタイン作 末盛千枝子訳 現代企画室)を読みながら待つことに。

人形を作り続ける女の子ゴールディーは、予め製材された木っ端を使うのではなく、森で拾った枝を使います。ゴールディーは、木っ端だと『うまく言えないけど、それだと本物のような気がしないの』『生きているような気がしないのよ』と言います。

『会ったことのない友だちのために、小さな木の人形を作るの』と、真摯に仕事に向き合うゴールディーの姿勢には、あらゆる仕事に通じることだと思います。そしてそれは、数字で捉えられる訳でも、白黒はっきりしたものでもなく『うまく言えない』ものだからこそ、時にしんどくもあり、そして尊いものなのかもしれません。

城下さんはまるで本屋のゴールディーのよう。店の入り口に言葉を添えた「今日の一冊」を毎営業日掲げ、店内では美しい文字で本を紹介されています。ご自身が感じたこと、ひょっとしたら同じように共感してくれる人がいるかも、この本を必要としてくれる人がいるかも・・・そんな想いが伝わってきます。

お店の寄せ書き帳に記載されていた、お客さんが書いたのであろう文。

『東京行って 五島に帰って起業します

/地元に居場所を作ります

/帰りたい 無くしたくない

/場所って大切ですよね。』

ビルの小さな一室にあるこの本屋も、そういう場所なのだと思います。

 

・長崎観光

博多に続いて、車に積んできた折りたたみ自転車が活躍。

城下さんに教えていただいた「かんざき食堂」(ちゃんぽん美味!)、「珈琲人町」を中心に駆け巡る。「川端」はひとやすみ書店の隣にあって前回も訪問したおまんじゅう屋さん。前回あったかんころ餅が無くて残念だったけど、おまんじゅうや柏餅のおいしさといったら!

 

・大浦天主堂

添乗でだったか学生の頃友人とだったか忘れてしまったが、前回訪ねた記憶の大部分が飛んでしまっていたので改めて訪問。建築の見事さもさることながら、日本におけるキリスト教普及や弾圧などの歴史が、体系的にわかりやすく展示されていてなるほどと思う。これまでは「ザビエル」「キリシタン」などのフレーズしか分かっていなかった(笑)

印象的だったのは明治初期、日本政府によるキリスト教弾圧が世界的な批判を浴びていて、結果、日本は不平等条約解消のために弾圧を止めざるを得なかった歴史があること。現在の日本はどうだろう。言論の自由やヘイト、世界からどう見られているか?けして良くは見られていない。内々の視座も必要だけど、世界目線で投影する視座も必要だと、感じさせる展示でした。

 

・カリオモンズコーヒーロースター

こちらも城下さんに教えてもらったお店。なんだかこの日は城下さんガイドで回っているなぁ(笑)これも旅の醍醐味。

お店は想像してなかったほどに素敵な佇まい!元石材店という、町工場を思わせる店内はシックでいて、仕事の躍動感が伝わってくる、心地よい空間。クレバー抽出の、深めのエルサルバドルをベンチにて。思いの外すっきりとした味わいで香りが豊かでした。これからの長距離ドライブに力が湧く。

 

・小地獄温泉館

 

硫黄の匂い漂うすばらしい湯(しかも非循環で清掃も行き届いている!)。硫黄泉のほとんどない、千葉県人にはたまらない。旅にきたー感が倍増

「西日本一周の旅…点景 2018.5.18」

 

有明フェリー(長崎県雲仙市→熊本県長洲町)

taramu books&cafe(福岡県大牟田市)

コーヒーサロン はら(大牟田市)

チャイナスタンド笑龍(大牟田市)

熊本市本屋めぐり(熊本市)
 →my chair books
 →汽水社
 →橙書店 CAFE ZAKKA orange
 →長崎書店

坪井温泉 大福湯(熊本市)

 

・有明フェリー

前回は天草から南島原へ渡航したので、今回は雲仙の多比良港から熊本県側の長洲港へ。なんでフェリーでひょうきんな最中が売ってるのかと思いきや、長洲は金魚養殖が盛んな金魚の町なんだとか。

始発の船内にはベンチで横になる男たち。甲板のベンチにはタバコをくゆらす男たち。男気溢れる朝フェリー。着岸後、男たちはとめてあった自転車に跨って工場立ち並ぶ街に消えて行った

 

・taramu books&cafe

前回、長崎のひとやすみ書店の城下さんに教えていただいたのがきっかけで訪ねたtaramu books&cafe。以前図書館に勤められていた村田さんが切り盛りするお店で、自称「裏観光案内所」というように、大牟田の町ネタ尽きず、今回もモーニング戴きつつ3時間くらい話してました(笑)。

「常連のベテラン」だという(常連がベテランになるって相当だな)やたら町事情に詳しいおっちゃんが福岡コーヒー事情について教えてくれたり、不意に紫玉ねぎやハチクや持ってくる女性が現れてみたり、相談事に近くのシェアオフィスで働く青年が村田さんの元を訪ねてきたり・・・。いい感じで街の寄り合い所だ、これは。だから、ここが本屋だと気がつかない人もいるらしく!?、本棚に『ここは本屋です』というPOPが掲げられていた(笑)

taramuさんに置いていただいていた閲覧用の本がきっかけで『房総のパン』をご注文いただいたこともあり、遠く離れている方にもこうして房総の魅力が伝わるのは嬉し限りです。今回は『房総コーヒー』『房総落花生』を置いていただきました。ありがとうございます!

また、各地のフリーペーパーも揃っています。大牟田にある動物園のフリーペーパー、動物園愛が詰まってます(笑)

 

・コーヒーサロン はら

「はら」は50年以上前に開業した老舗喫茶。村田さんにオススメされて訪問。ウエノさんというおばあちゃんが切り盛りされていています。コーヒーゼリーフロートを味わいつつ、創業当時の話を伺うと、かなり炭鉱闘争で街自体かなり荒れていて、移転も余儀なくされ大変苦労されたそう。「エネルギー政策が石油に向かっていて、炭鉱の賛成派と反対派が争っていた。そんな真っ只中にお店を開いたんです。反対派の人が来て『あ、賛成派がいるな』とみたらドアをバタンと閉めて帰っちゃったりね。大牟田の街はいまは活気がないけど、ああいう活気はない方がいいねぇ。歴史とともにこの店はあるのよ」。

大牟田はレトロ映えで注目されている街だということですが、こういう過去の上に今があるとは。街も生き物のようです

 

・チャイナスタンド笑龍

こちらはウエノさんに教えていただいたランチスポット。口コミで旅程がつながっていくのが楽しい(笑)手作り調味料で作る四川料理。1000円ランチ、ボリュームもお味も満足でした。ミニ担々麺のゴマの風味がいい~。アーケー商店街の空き店舗活用のお店のようですね

 

・my chair books(熊本市)

昨年、阿蘇で行われたイベント「熊本パン日和」でたまたまお会いしたことがきっかけで『房総シリーズ』を扱ってくれることになったmy chair books。『房総カフェ3 それぞれの食のシーン』が完売していたため、追加納品させていただきました。ありがとうございます!

 

熊本市では書店巡りを満喫したものの、大雨で大変でした。疲れた身体にはお風呂が一番。こちらも昨年訪ねた銭湯「大福湯」で気分もサッパリ!

「西日本一周の旅…点景 2018.5.19」

 

さぬき本店(熊本県八代市)

水俣市立水俣病資料館(熊本県水俣市)

ナポレオン(水俣市)

天の製茶園(水俣市)

湯の鶴温泉・喜久屋旅館(水俣市)

 

・水俣市立水俣病資料館

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排水を止めることは、会社の操業を止めること。

そうなれば、会社が倒産し、社員が失業し、また、会社や社員が物を買っている店もつぶれてしまう。その結果、この地域の人々の経済的豊かさも得られなくなってしまう。

そうした中で、排水の停止を主張するならば、工場などの中で疎まれ、大事な仕事から外されてしまう…。

あなたなら、当時、こんな気持ちとならなかったでしょうか。

「他人の命や健康よりも自分の暮らしを守る事が大事」という考えがあって、「全ての人の命と健康が一番大事」という事を、本当に忘れていない言えるでしょうか。

(中略)

これからの将来をどのように生きていくのか、一人ひとりが今、問われているのです。

---------------(展示解説より)

水俣病の原因物質として疑われてからも、チッソによるメチル水銀の混入した排水がなかなか止まらなかった、止めなかったことの背景や、患者さんに対する差別、チッソの操業停止を求める声と、逆に地域経済を支えていた大企業の操業停止を危惧する声・・・様々な展示がされていた中で、差別と分断の構図が非常に印象に残りました。否応無く、東日本大震災の原発事故や沖縄の基地問題を想起させられます。『私は水俣病ではなく「水俣事件」と呼んでいる』というメッセージも、原発事故で言われる「天災ではなく人災」という捉え方と通底している気がします。

地域では企業誘致などがよく叫ばれていていい部分もあると思いますが、特定の企業・経済に依存し過ぎてしてしまうのは危険だなと。人の多様性もそうだけど、地域産業も多様であり、バランスがとれていたほうが、未来の豊かさを担保できるのではないか。そう思いました。

 

・天の製茶園

現在の水俣はエコタウンとしても知られていて、水俣病資料館では廃油を再活用したエコ石鹸なども売られています。その石鹸の隣に置いてあった紅茶。水俣で作られたものだそうで、気になったので現地に行ってみようと思い車を走らせると、とんでもない山の中だった(笑)久しぶりに本気で道に迷った末になんとかたどり着きました。

敷地脇には清冽な小川が流れ、桃源郷にでも迷い込んだよう(本当に迷いましたが)。本当は入り口にある無人直売コーナーでの販売なのだそうですが、たまたま3代目の天野礼さんがいらしていて、いろいろお話を聞かせてくれつつ商品を見せてくれました。

で、聞けば聞くほど驚きの連続。なんと、30年以上も前から紅茶を作り続ける、いわゆる「和紅茶」のパイオニア的存在なのに加え、先代のお父さまの代から無農薬・無化学肥料で栽培されているのだそう。しかも、おじいさんが種まきしたところから始まり今に受け継がれる、在来種の紅茶・緑茶も作られているのです。ちなみに、羊羹のとらやさんにも紅茶を納めているとか・・・。

礼さんはとてもバイタリティあふれる気さくな方で、埼玉にも暮らしたことがあるとのこと。当時は運送会社に勤められていて、Uターン後、後を継がれたそうです。で、なんとセルフビルドで家まで建てちゃった!「田舎だと好きにできるんで楽しいです!」と礼さん。いやぁ、家まで作っちゃうなんて(笑)

帰り際、おすすめのお店などを教えていただきましたが、同じく「自分で家を建てちゃった」ような人ばかり(笑)

 

教科書で学んだ水俣のイメージを、いい意味で崩されました。