それぞれが自由に楽しめる、関われる。それも本の魅力
昨日、3月21日(祝)は佐倉市の志津図書館を会場に行われる、BOOK LINK SAKURA「志津で本をもっと楽しもう!一箱古本市」に、一箱店主として参加いたしました。季節が逆戻りしたような寒さと雨のなかではありましたが、いろいろな方に足を運んでくださいました。中には東京からいらしたお客さんもいらしてびっくり。
今回の暮ラシカルデザイン編集室のお店はこんな感じ。雨ということもあり、いつもよりも本を絞ってコンパクトにまとめました。
地元、志津の方を中心にいろいろな方にお越しいただいたのですが、「千葉のことを知りたくて」と、引っ越して来られたばかりの方が『房総コーヒー』と『d design travel 千葉』を合わせてお買い求めくださり、嬉しかったです。千葉の魅力が楽しく伝わるといいな。
この日の催しは志津図書館の実験的イベント企画「ライブラリーラボラトリー」の第二弾として行われた催し。第一回は八街在住のアーティスト、宮内優里さんによる図書館のBGM演奏が行われたそうです。今回は志津図書館と市内の新刊書店、古書店、そして一箱古本市が連携して、志津地区で本を楽しんでもらうコラボ企画です。
13時からは図書館、新刊書店、古書店に携わるそれぞれの方が語り合うメインイベント「ほんね ほんきの ほんのトーク」が行われました。登壇者はネット古書店「古書くさかんむり」を運営する松本信太朗さん、佐倉の旧市街(京成佐倉エリア)で実店舗の古書店を営む「アベイユ・ブックス abeillebooks」の菊池聡さん、京成本線・志津駅の駅ビルにある新刊の総合書店「ときわ書房 志津ステーションビル店」に日野剛広さん、そして志津図書館の小広早苗さんです。
ここからはトークの模様をお伝えします。
志津図書館の小広さんによる
「佐倉市の人口17万人あまりのうち、(図書館の)利用者はざっくり15%、多くても20%くらい。10人に8人は図書館を使ってらっしゃらない。でも、本は別に図書館を使わなくても本屋さんで買って読んでるよとか、いろいろな方がいらっしゃるとは思いますが」
との、図書館の現状報告を皮切りに、
「出版不況と言われている中、なぜお店を始めたのか?本と熱く関わっているのか?」
というお題が出されました。
まずはくさかんむりの松本さん。
「本の役割。本を通じて色々な人が出会えたり、交流、ひいてはまちづくりという側面もあるのかな」
「本の役割を掘り下げていきたいなと思って、古本屋っていうのをやってみることにしました」
一箱古本市に店主として参加した時、年の離れた中学生と交流できたエピソードや古本屋業界の話にも触れていただきました。
続いてアベイユの菊池さん。
「3人の子どもを育てているんですが、自分の子育て体験から絵本の方に投資がだいぶ向きまして。読み聞かせですね。絵本が持っているリズムとか、人間の感性に及ぼす影響というものが、すごく複雑なものだと、体験として自分の中に染み込んできてる。その本の深みに魅せられてきています」
また、佐倉の旧市街に実店舗を構えた理由については
「古都というのは時代の流れに流されやすい傾向があります。自分が情熱を持っている古書、古書店としてそういったところに役立てるんじゃないかなとも思いました。それで京成佐倉の方に店を出しました」
菊池さんのお話、すごく共感できるところがあって、なるほどなぁと強く頷きました。
本にはリズムがあると。
私も自分で本を作るにあたって、リズム感、読み進める時のテンポとか雰囲気とか、そういうことをものすごく意識します。だって、リズム感によって読み手の記憶や感覚への染み込み方が絶対変わってくると思うし、自分自身が読んだ本に対してそう感じるから。言い換えると、これも「編集」だと私は考えています。そしてこれがネット記事との差異であるとも考えています(逆にネット記事のリズムもあると思います)。
さらに菊池さんは、お店がまちのリズムを生み出す可能性にも言及されていたのが印象的でした。一方、小広さんは
「(絵本について)小さい子どもは理屈じゃなく感性とか本能で楽しんでるのかな。小学5年生以降、中学生とか、それこそ大人にも、どう絵本の魅力を伝えたらいいかなというのが課題」
とも。お次はときわ書房の日野店長。
「新刊書店の雇われ店長ですので、会社に佐倉に行けと言われましたので(笑)。前の店舗が10年以上勤めていたものですから。なかなか慣れなくてですね」
「当初は佐倉のみなさんと連携とはぜんぜん考えてなくて、来た本をただ並べていて。ここ数年から日本国内がいろいろ問題がでてきて、その中で出版も不況というものが現実的なものになってきて、それなのになんで本屋なんだろうと、個人的に壁にぶち当たりまして。それで全国各地の本屋さんを巡り、SNSで各地の本屋さん、本に携わる人に刺激を受けるようになって、全然自分のことはきちんとできてないなと思い知って」
「(志津は)都心からちょっと離れていて乗降客数もけっして大きい規模とは言えないと思うんですね。そんな中で品揃えが果たして合っているのか社内からも言われる」
日野店長の葛藤の様子は、本を作って送り届ける身からも共感できるところがあって、常に「この本は必要とされているものなのか」という葛藤を拭えることはありません。それでも前に進めるのは、読者のみなさんの声があるから。そして、未来の読者の人たちのことを想うことができるから。
「あ、この本いいなって思った時にお店に行って買える機会が少なくなっているな。一方でネット書店のような便利なところもあるんですが、目の前に手にとって買えるという機会が。この贅沢なというか貴重な機会がどんどん少なくなってきてるな」
と小広さん。続けて日野店長は
「売れ筋の本がきちっとあって、売れていくことが前提できちっとやっていかないと。それがあって選書している本が生きてくるのかな」
しっかり現実も見つめたコメント。
この後、来場者から「お店のファン作りはどうすればいいのか?」という質問がありました。
まずは松本さん。
「品揃えが一番かと思います。得意なジャンルを掘り下げていったりですね」
続いて菊池さん
「やはり品揃えですね。指向性は伝えられると思います。店としての指向性を理解していただいて、うちでしたら絵本や挿絵作家の本。そうして出会いを少しずつ増やしていく」
最後に日野店長ですが、ちょっと考察すべきところがあります。
「何を持って品揃えなのか、というのもありますよね。ベストセラーはもちろん、そういうところではすくいきれない本も。そういったところに価値を見出すかたもいらっしゃるので。もう一つは接客ですよね」
また、ツイッターで積極的に発信している点も踏まえて、
「SNSには大きな落とし穴がありまして、遠くの方には支持をいただいているんですが、地元の方はご存知なかったり。あとは実売に直結するかという問題も。いいねが500ついた本が1冊も売れなかったこともあるんです。あくまでも宣伝や話題と当店の認知に役立つ。これが売り上げに直結すると鵜呑みにするのは早合点かなと」
と、日野店長のおっしゃるSNS体験談は考えさせられるところがあります。個人的には本のイベントにも、このフィルターバブルな部分があると思っていて、一見賑やかに見えるブックイベントも、丁寧に観察するとすごく本に関心のある人のコアな集まりだった、という現象がよくあると思っています(イベントの趣旨によってはそれでいい、という考え方もあると思います)。結局、情報発信にしろイベントにしろ、一つのやり方に特化するのではなく、バランスや多様さ、自由感があって広がりが生まれてくるのかなと思います。やっぱり確実性のあるのは「リアルなつながり」かな。
「なんで本を読むのか、売ったり買ったりするのかという問いは一つじゃなくて、みなさんそれぞれだし、一つじゃなくていいわけで、そろぞれだからいいというか。それが本の魅力。押し付けでもないし、自由に好きになったり。人との出会いとも一緒なのかなと私は思っているんですが。その出会い縁をどう繋げていくかも人それぞれの自由で、それも本の魅力なんじゃないかなと私は思っています」
小広さんの締めの言葉に、うんうんと納得しながらトークは終了したのでした。
今回は様々な本の魅力、楽しみ方、そして本について考えるいいきっかけとなりました。一箱古本市でもいろいろな方とお話ができ、恐縮なくらい有意義な一日でした。主催者のみなさまに改めて感謝申し上げます!
なお、次回は七夕、7月7日にまた本の催しを行うそうですよ。乞うご期待です!!