本が繋ぐご縁が、旅の道標となりました
Posted on 2016.6.8
3月末に勝浦市地域おこし協力隊が終了し、『房総カフェII 美の遺伝子』の出版も無事に終えたところで、封印していた旅に繰り出す事に。期間は三週間。当初は北陸や東北も回れたらと考えていましたが、行く先々で面白く・・・結果的に西日本一周くらいになりました。初日に新東名などを使って一気に三重県尾鷲市までワープしたほかは、ほぼ下道での移動。立ち寄り先の本屋さんでおすすめスポットや人をご紹介いただきながら次の目的地を決めたりと、そんなきままな旅です。旅の最中に個人Facebookにアップしていた文章を再編集して、ダイジェスト的ざっくりと旅の模様をお伝え致します。あくまでも個人趣味の旅のレポートですので、かるーく読み流していただければと思います。
【5/7】「おばちゃんの笑顔~三重県尾鷲市」
紀伊半島名物の「サンマ寿司」「めはり寿司」を売るおばちゃんの笑顔が素敵でパチリ。おばちゃん、竹の庖丁でサンマを捌いてるそうで、そうすると微妙なぎざぎざができ、酢・みかん汁がよく染み込むのだとか。キュッと酸味の利いたサンマ寿司、美味しかった!
太平洋に臨む尾鷲市では、毎月第一土曜日に朝市「イタダキ市」を開催されているそうで、この通りの賑わい!現地では「おさすり」とよばれる柏餅や、変わった形の「ウチワエビ」など、珍しいものがいっぱい。
特に「梶賀のあぶり」という保存食は酒のつまみにぴったり。小サバやブリをスモーク。素材は市場に流通しない雑魚を使う事も多いです。頭とはらわたを取り、塩だけで味付け。「1時間半は炙りますよ」と梶賀まちおこし会の方の弁。めちゃうまくて保存の技術もあり、素晴らしい伝統食でした。
尾鷲市は街中の佇まいや、尾鷲神社の巨木も見事でしたね!
【5/7】「山村のショッピングモール」
ロードサイド沿いに専門店がズラリ。
旅人にも一目瞭然で旬が分かります。
きっと今は甘夏なんですね。
『買う心 売る心 肌より味』
なんてキャッチコピーも。
無人だけどしっかりと温かさの感じられる商いです。
三重県の御浜町、無人販売所がなんでこんなに!?というほどいっぱい。
【5/7】「棚田の集落へ(1)~山裾の風に誘われて」
山の裾から舞い上がる風と、
折重なる蛙の声。
山の草木の花々からなのか、
甘く青々とした新緑の匂いが、
全身を包み込む。
この山里の今すべてが、
感受性の扉を優しく開いてくれる。
先週訪ねた熊野市の山間部(旧紀和町)、「丸山千枚田」です。
田植えをされていたおじいちゃんにちょっとお話を伺ってみました。
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(お米はコシヒカリですか?)
コレ?あきたこまち。下からこう風が吹いて来るでしょ。だから倒れないように背の低いのにしとる。夏でも下から風が来るからじっとしてても暑くてしょうがないってことはないなあ。
(この石積みの棚田、下へ下へと水が流れるようによく設計されていますね)
いやー、昔の人、よく造ったわ(←ということは、おじいちゃんよりも前の時代に既に石垣が組まれていたようです)。水は湧き水と、谷から引いて来てるのがある。冷たいけど、こうやって来てぬるうなってくるんや。
(いま何軒くらいの方が田んぼやられてるんですか?)
うーん、40軒くらいか。ようできなくなって、保存会を作ってな。オーナーさんに来てもらうんや。
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■一般財団法人熊野市ふるさと振興公社
【5/8】「おばちゃんの笑顔2~和歌山県那智勝浦町」
「実は私『勝浦』から来たんです」
・・・この決めゼリフが本当に利いた、那智勝浦。すぐに話が弾みますね(笑)マグロの町・「勝浦漁協にぎわい広場」(←那智勝浦の方の朝市です)へ。
カラーみかんやはっさくを売るおばあちゃんにも「決めゼリフ」から入っていって、いろいろお話を伺うことができました。「ムッキーちゃん」なるはっさくや甘夏の厚い皮を剥く、超便利道具を操って目の前で皮むき、試食させていただきました。美味しさにうおーっなったのですが、それ以上にムッキーちゃんがツボに入って購入しちゃいました。なんて便利な道具だろう(笑)
おばあちゃん、那智勝浦でのひなまつりの様子や「東京湾渡る橋がそっちにあるでしょ?こっちにも大島(潮岬の先にある)に架かる橋があって、風が吹くとダメなのよ・・・」と、房総とからめてお話をしてくださるのですごく面白かったです。しかもこちらではトルコ人が昔難破して地元の方に助けられたそうで、まるで(房総の)御○町のメキシコの話じゃん!と思ったり。漁業の文化の繫がりはありますが、さらに勝浦の共通点を辿ると話がつきません(笑)
ランチはおばあちゃんに教えていただいた駅前の「大和」という食事ところへ、お店の方が仲買の方のようで、マグロづくしの定食が美味しかったですね。いやーありがとうおばあちゃん!
【5/8】「『本があるから人に来てもらえる』イハラ・ハートショップ~和歌山県日高川町」
「『雪見』ない?もう」
と本屋に入って来た中学生。雪見というのは雪見大福のこと。山並みに囲まれた集落にある本屋に、子どもたちが駄菓子や漫画目当てに集まってきました。ここ、イハラ・ハートショップには一般書のほか、農業関連を並べた棚の付近に「種」が売られていたりと、この地の暮らし振り、土地柄が窺えます。もともと本を専門だったのが、駄菓子を扱い、種を扱うようになり・・・と変遷してきたなかで、少子化、郊外大型店舗の誕生など、日本のどこでも抱えている問題の渦中にこの地もあり、また本屋だけに戻すのか・・・と次のあり方を模索されています。
「本があるから人に来てもらえる」
と、店主の井原万見子さんがおっしゃっていた言葉が最も印象に残りましたが、面白いことに、この後訪ねる各地の本屋さんで何度も同じ言葉を訊く事になりました。翌日は井原さんに教えてもらった龍神村の豆腐屋さんを訪ねます。この日の温泉は龍神温泉でした。
【5/9】「山村の豆腐カフェ『るあん』~和歌山県田辺市龍神村」
豆腐工房にカフェを併設。
自家焙煎大豆コーヒーに豆腐キッシュ、そしてざる豆腐と、豆腐(大豆)ざんまいのラインナップを戴きます。ざる豆腐は醤油または塩で、シンプルに。ずっしり。でも滑らかな口当たり。濃ゆい大豆の甘み。
「豆腐づくりは11年やっています」
という小澤聖(きよし)さん。カフェは主に友佳子さんが担当されています。
一家は十数年前に龍神村に移住。なんと千葉市の都賀から。その事を訊いて一気に親近感倍増です(笑)勤めで東京へ、そこで奥様で出逢いますが、奥さんの実家が和歌山だったこともあり、この地へとやがて繋がっていきます。林業に携わった後、豆腐づくりへ。
「豆腐がとにかく凄かった。各家庭で作っていたんです。正月の雑煮に入れるくらい、っこでは特別なもの」
「当初は、当時まだ豆腐を作っていたおばあちゃんがいたんです。一度だけここに来ていただいて教わりました。昔は豆腐屋に自分ちの大豆を持って行って豆腐にしてもらっていたんですね。豆腐屋は手間賃をもらって。うちでもやってましたが、おかげさまで忙しくなって(笑)」
「自分で何かをしたかったんです。何か得意なことがあれば暮らしていけるんじゃないかと。ここは移住者げ結構いるんです。トレイルランをやられている方も移住者ですし、知り合いの染織家は柏市から来ていますよ。この辺って、マルシェが多いんです。新宮とか田辺とか。それで生計を立てている人もいます。今50~60代の先輩移住者が土台を作ってくれたんですね」
本を差し上げたらお礼に豆乳を戴きました。
それは生きる活力となる、力強くも甘やかな豆乳。
【5/9】「神戸で宮崎のパンの本を買う〜『1003』」
神戸元町中華街のほど近く。夕闇に包まれゆく裏通りをゆくと、不意に現れる白いビルディング。ぼうっともれる灯りが、静かにもう一つの世界へといざないます。細い階段を上がり扉を開けると、そこではしばしの自由の時間が待っています。コーヒーやビールを飲みながら、ページの中、過去の記憶、そして空想の世界へ。人それぞれの旅が繰り広げられます。
1003(せんさん)は古書、新刊を扱うお店で、近隣の本屋さんを巻き込んだ催しや、ビル内でのピクニックを開かれたりと、人の集う場にもなっているそう。ビールも飲める本屋さん、ということでお酒関連の本もいっぱい(笑)
古書だけでなく日本各地のリトルプレスも揃っています。私の大好きな盛岡の『てくり』もばっちりあって、ちょっと嬉しくなりました。リトルプレスのセレクトにあたって京都のレティシア書房さんからアドバイスをもらったのだとか。本屋さん同士の繫がり、いいですね!厚かましいながらも拙著『房総カフェ』の「扉のむこうの自由を求めて」「美の遺伝子」をそれぞれ置いていただける事になりました。少しでも房総の魅力、生き方を知っていただけるきっかけになれば嬉しいです。店主の奥村さん、本当にありがとうございます!
この日はついつい3冊の本を購入しちゃいました。ウィスキーがもっと身近に感じられる『ウィスキーヴォイス』(サントリースピリッツ)、「ジャリパン」が気になる『宮崎パン日和』(KIMAMA BOOKS)、そして『詩を描く』(伊藤尚美 ITSURA BOOKS)です。テキスタイルデザイナーの伊藤さんが四季を巡り綴ったフォトダイアリーなのですが、背筋がしゃんとするような瑞々しさで溢れています。日常はもっと美しく、愛おしいのだなと。改めてじっくりと読み込んでいきたいです。
下の一節は私的に引っかかった言葉。
「春の筆」の中の一節です。
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再現しようとすると
ゆびの間からするするっと消えていく
手繰りよせる
祈りのようなたたずみをもって
木漏れ日の景色を
心に残る詩を描いて
布へ
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■1003(神戸市中央区)
【5/9】「神戸が餃子の街とは知らなんだ」
神戸は元町のセレクト書店さんで話が盛り上がったらなぜか、神戸の餃子は旨い!店も多い!という話に。行きつけの店を教えていただいたのがここ、大学です(餃子の資格試験を受ける訳じゃありません・笑)
神戸の餃子のたれは、なんと味噌ベース!大学では味噌2にラー油1、酢と醤油が少々という配合。甘めの味噌にしょっぱ辛をカスタマイズします。こっくりした旨さがジュッと広がる!ああ、ビールが飲みたいけどロングドライブ中なのでお預けです、、
【5/10】「漁師町のおっかさんがおもてなし」
その雰囲気がすごくいいです。
港町来たなー、という感じ。
味も美味しいですがメニューも気合い入ってます(笑)
鳥取第二の水揚げを誇る網代漁港、「あじろや」にて。
【5/10】「民藝美術館からブックカフェへ」
「民藝運動の実践者 吉田璋也 民藝へのいざない」展を観に、鳥取民藝美術館へ。そこで学芸員さんおすすめのブックカフェを教えていただきました。民藝美術館から歩いて5分くらいのところにある「ホンバコ」。あいにく店長さんは不在でしたが、空き店舗だったところをクラウドファンディングを活用しブックカフェとして再生されたそうです。店内に並ぶ本の数々は様々な方から寄贈してもらった本だそうで、壁面に所狭しと収納されています。さっそく『房総カフェ』も寄贈させていただきました。本が人を繋ぐきっかけになる。井原さんの言葉が蘇ります。
【5/11】「『うちみたいなへんな店が増えたら』〜一月と六月(境港市)」
前回訪ねた時は、港湾施設の方に懇切丁寧に街、産業、魚介の美味しい店(味処まつやさん、今回も行きましたよ・笑)をガイドしていただいた、めちゃ好印象な港町、鳥取県境港市。この日は雨上がりの夕暮れ時、トロリとした美しい港の表情を魅せてくれました。
水木しげるさんの街として有名な境港の商店街から、一本路地に入ると、不意にカフェのようなお店が現れます。阿部ご夫妻が切り盛りされている新刊、古書、雑貨、衣類を揃えられているお店で、実際カフェの営業もされています。衣類スペースにあった手づくりかばんの作家さんが、なんと私の実家である千葉県船橋市の「か猫」さんのものだと教えていただき驚きました(笑)
この建物は昭和30年代のもので、元々は4店舗ほどが入った貸し店舗だったそうですが空家になり、時を経て阿部さんが「一月と六月」として再生するに到りました。ここ数年は水木しげるロード界隈のお土産物店が増え、お客さんも来ていたそうですが、それだけに頼ってもいられない、「うちみたいなへんな店が増えたら」と、阿部さんが冗談めかして笑われたのが印象的でした。
今回購入した本は、『かまくらパン』(港の人)と、『来鳥手帖』。来鳥手帖は料理研究家の福田里香さんとみつばちトートの束松陽子さんが、鳥取へ民藝の旅へゆく、という本ですが、ちょうど前日に鳥取民藝美術館を訪ねていたのですぐ本に引き寄せられちゃいました(笑)。冒頭の吉田璋也の言葉が好きです。
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材料は用途によって適切なものを吟味し、
出来るだけ装飾を少なくすること。
用途に忠実に、使いよいものをと心掛けること。
仕事は誠実で丈夫であること。
無理な技法はさけ、安全な技法を選び、
伝来の熟練した技術を護ること。
雅味を狙ったり、特殊なもの、
奇異なる形をこのまないこと。
粗悪にならぬ限り、安価に創ること。
繰り返し造って熟練すること。
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「吉田璋也 民芸のプロデューサー」(牧野出版より抜粋)
■一月と六月(鳥取県境港市)
http://ichigatsutorokugatsu.com
【5/12】「松江。カレーと、コーヒーと」
中房総じゃお馴染み、「亀吉」の「米T」を着ている松江市の人といえば、スリランカカレーショップ「印度亜(いんどあ)」の内田さんです。久しぶりに訪ねたら、カレーらしく(?)イエローの米Tでいらっしゃいました(笑)覚えてくださっていて嬉しかったです♫ランチ時に訪問してしまいすみませんでしたが、ランチのセットが美味しかった!舞いあがるようなスパイスの香りとうま味がたまりません。ちなみに印度亜のカレーは化学調味料等不使用なんです。面白かったのがそんなに辛かった訳ではないのですが、食べ終える頃からどわーっと汗が噴き出してきたこと。もう爽快なくらい。これデトックス?疲れがいつも以上に溜まっていたのかも。美味しいお食事&ドリンクも!ありがとうございました!!
そして「コーヒー」は「IMAGINE.COFFEE」。メニューにおまかせとあるので頼んでみたら、ウォッシュド製法のグァテマラでした。金継ぎした器とともに美しいお味でしたが、さらに「コレは!?」と唸ったのが、6月19日に松江で行われるイマジンさん企画のイベント!「SUNDAY COFFEE & LIFE MARKET」。なんとマーケットに『A FILM ABOUT COFFEE』の上映、そしてカッピング体験までできちゃう!!いやー、これ房総にもあったらいいなっていうイベントです!!
■印度亜
http://srilanka-indo-or.jimdo.com
https://ja-jp.facebook.com/srilankacurryindoor
■亀吉の米Tシャツ
■IMAGINE.COFFEE
【5/12】「本の先にある可能性〜artos Book Store(松江市)」
宍道湖を染める夕日が美しくて、思わずうっとりしてしまう城下町・松江の夕刻。「松浦珈琲」「木朴」「IMAGINE.COFFEE」と、カフェ&自家焙煎珈琲巡りの果てに辿り着いたのは「衣食住」をテーマに本や雑貨を揃えられている「artos Book Store」さんです。
ちょうど「夜の木」展を開催中で、インドで昔ながらの製法で作られた絵本と、本の中に描かれている絵の大判シルクスクリーン作品が展示されていました。重厚な製本や鮮やかにエッジのきいたシルクスクリーンの絵の美しさはもちろん、手漉き紙の一枚いちまいの質感、そして「匂い」がなんともいえません。紹介文にもあるように、まさに工芸品の域に達した本といえるでしょう。本のひとつの原点を目に刻むことができて嬉しく思います。
■artos Book Store(島根県松江市)
http://www1.megaegg.ne.jp/~artos/menu.html
http://www.facebook.com/artosbookstore
※夜の木展は5月14日[土]までで終了
アルトスさんでは『岡山の民芸』(外村吉之介 岡山文庫)と『BOOK在月3』(BOOK在月実行委員会)を購入。『岡山の民芸』は民藝の品だけでなく、それを作られていた往時の人々の姿が収められているのにぐっと来て手にとりました。できる「過程」を伝える本は貴重だなと思います。BOOK在月実行委員会は古本市などを開催している委員会で、やがて千葉にもこのような動きが湧き上がればいいなぁと思わせるものであります。
また『BOOK在月3』ではアルトスさんの次のような紹介もありました。
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「店のコンセプトを意識して本や雑貨を組み合わせ『ストーリー』を提案しています」と西村店長。(中略)追い求めているのは、本に載っているモノを売ることではなく、「本の先」にある可能性だという
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本に込めた熱量や、宿る心が、可能性の光を照らすことができるか。多分、そんな編集、本づくりの模索は一生続くのだと思います。