作業の一定のリズムの中に、石窯と、漂う香ばしさ
Posted on 2015.10.26
朝の息づかいが訊こえる。
光に照らされた土の呼吸が見える。
吐く息の白さが、
晩秋の訪れを教える。
あぜ道を
おじさんと秋田犬が
とことこ歩いて行った。
・・・・・秋田県北部、鹿角市の朝。
鹿角を訪ねるのは約10年振り。鹿角市の中心、JR鹿角花輪駅の界隈を車で走っていると、今見ている商店街の佇まいに、添乗員として見たあの時の風景が重なり合います。
当時は旅行会社の秋田支店に勤めていたことから、秋田市内に住んでいました。鹿角花輪は県北地域のツアー乗車ポイントのひとつで、えっちらおっちらと秋田市から上小阿仁村の峠を越えて何度か来た覚えがあります。そう、同じ秋田県ながら秋田市からは「いやー、遠いなぁー」という感覚です。方言にも若干の違いが感じられたものです。そう振り返っていると、なんだか懐かしくて、スーパーでついつい比内地鶏のダシ醤油と真空パックされた新米きりたんぽをお土産に購入してしまいました(笑)
そしてお土産といえば、行きたかった煎餅屋さんがあります。それがココ、大正15年創業の「田代せんべい店」です。なんとこちらは南部煎餅のお店なのです。
■田代せんべい店
秋田県鹿角市花輪10
webサイト → ●
南部煎餅といえば岩手県の郷土菓子の代表格ですが、実はここ鹿角地域も南部藩の領域内だったことから、秋田県ではあるものの、南部煎餅が今でも根付いているのです。
店内にお邪魔すると、多種多様な煎餅がズラリ。硬派なスタンダード、ゴマの南部煎餅をはじめ、豆入り、麦入り、そして、クッキーのような生地の落花生煎餅やかぼちゃ煎餅などなど。
「もっと種類があったんですが、やりきれなくて」
と苦笑いするおかみさん。これよりもさらにいっぱいあったとは。
ゴマの「南部せんべい」は昔ながらの煎餅。
「『ずっと食べてるからね、食べたい』と言って、固いけどね、湯に浸けて食べてくれるご年配の方もいらっしゃるんです」
と、根強いファンに支えられる南部煎餅。
一方、アレンジを加えた「かわらせんべい」は見た目とは裏腹に軽い食感。サクンとひと齧りすると落花生の香ばしさがふぅっと立ちのぼり、つついもう一枚と手が伸びる・・・。コレ、本当に美味しいです。コーヒーの良き伴侶になります。
「かわらせんべいは、重い型なんです。『ドンッ、ペタッ』って。だから、そんなに数が作れないんです」
そのせいか、まとめ買いするお客さんもいるのだとか。
クッキーのような生地の落花生煎餅は、
「神戸の方が1回に100枚注文してくれる」
とのこと!なんでも紅茶ととに昼食として食べられているのだとか。
「3ヶ月が賞味期限ですから、100枚で丁度いいんですね」
とおかみさんは笑います。
「みそせんべい」は味噌パンの味を再現。地元、浅利佐助商店さんの味噌を使われているそう。面白かったのが、
「わざとちょっと置いてから食べる人もいらっしゃるんですよ」
と、やや湿気らせてから食べるお客さんもいるということ。煎餅もいろいろあれば、美味しい食べ方も十人十色。八戸では煎餅汁も有名ですしね。そもそも、山に入る人たちの保存食としても南部煎餅は食べられたのでは、と言います。昔は「糧」としての郷土食、という意味合いが、今以上に濃かったのかもしれません。
実際、煎餅の型は各家庭にあり、家庭で南部煎餅を作っていました。田代せんべい店の中にある囲炉裏端に置かれた型を見て、
「コレ、うちにもある」
と言われるお客さんもいるそうです。
型を見ていたらちょっと工房を覗きたくなって、お願いをして写真を撮らせていただきました。なんと、石窯で煎餅を焼いているではありませんか!
「窯を作れる職人さんがもういないんです」
と、ちょっと寂しそうな表情を浮かべるおかみさんでした。
お話を伺っているうちに、おかみさんがこちらに嫁いでこられた当時の町の思い出話を訊かせてくれました。
「市日(※)とは別に露店がこの辺りにも出てたんです。お店の近くにも野菜を売るお店が3軒ほどあって。忙しい時『皮剥いておいてくれる?』と頼めたりして(笑)山菜はいくらでもあります。ワラビ、ゼンマイ、タケノコ・・・。ボンナ(ホンナ)はよく買いましたね。苦いけど、ホウレンソウとも違うんですよ・・・」
目の前がスーパーだった。そんな情景が浮かんで来るようです。そんな過去との邂逅は、もう一軒のお店へと続きます。
※花輪朝市。3と8のつく日に市が立ち、400年の歴史があると云われています