9月にリニューアルオープンされた古本屋カフェです
Posted on 2015.9.18
複雑に入り組んだ住宅街の小路に何度も戸惑いながら、ようやく『この奥です』と描かれた看板を見つけました。ミステリー小説ならばいよいよ真犯人の登場、というところ。矢印に従い建物の中に入ると、なんとそこも迷路のようではありませんか。事件解決目前にして大きなどんでん返しが待っていたのでした・・・・・。
と、言いますとなんだかトンデモないところにやって来たみたいですが、この日訪ねたのは市川市にあるブックカフェ「アトリエ*ローゼンホルツ」さんです(笑)。この9月にリニューアルされたと訊き、足を運んでみました。
■アトリエ*ローゼンホルツ
市川市真間2-2-12
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前職の情報誌時代、ちょくちょく伏姫桜で知られる真間山弘法寺や芳沢ガーデンギャラリーに仕事で訪ねていましたので、JR市川駅から大門通り界隈の地理は多少入っているつもりでしたが、さすがに京成・市川真間駅北側の住宅街は地図がないとなかなか辛いところでした。
そして、ローゼンホルツさんに辿り着くや、入口がなんと二つあるのです。片方はカフェへの入口、もう片方の入口の向こうには文庫本などがずらりと棚に並べられています。
「こちらの文庫本などを並べているところは、ちょっとカフェまでは入りにくいかなって思われる方のために、新しく作ったスペースなんです」
と教えてくれたのは、店主の佐藤真里さん。なるほど、本を目的に来られた方にとっては、靴を脱いでカフェスペースまで行かなければならないとなると、多少抵抗があるかもしれませんね。さっそくお邪魔します。
角の擦れた階段から、
歪みのある窓ガラスから、
絵画の背後に構える壁の表情から、
積み重ねられた時の気配と、
ピンと一つ筋の通った微かな緊張感が伝わり
訪れる人たちの感受性を心地良く刺激します。
カフェ内には階段が2ヶ所あり、それぞれ独立した部屋に繋がっています。まるで迷路のような面白さがあります(笑)。この日はn*cafeさんのクッキーと、アセロラのようなすっきりとした酸味があるオミジャ茶を味わいました。香ばしいクッキーにクセのないオミジャ茶に、ふぅっと気持ちをリセットします。
佐藤さんが全国からチョイスしたリトルプレスも揃います。実は私の自費出版本『房総カフェ』も(ありがとうございます!)。なんと、房総カフェの最初の1冊は岡山の「451BOOKS」さんから購入されたとのこと。こういう本で繋がるご縁に本当に感謝です!
元々こちらは昭和初期からあった「大正湯」という銭湯だった場所で、閉業後はしばらくの間、実質、本や絵画の倉庫となっていたそうです。ところが床が傷み出し、さぁいよいよどうするかとなった時、「建物を壊すより、床を張り替えた方が安かった」ことから修繕を始めました。すると、血流がめぐりゆくかのように、賑わいのリズムが徐々に生まれ始めたのです。
『放置されていた絵画を
壁に掛け
積み上げられていた本を
棚に入れ
ぽっかり出来た空間に
机と椅子を並べたら
ゆっくりと ゆっくりと
古本屋カフェの
時間が動き始めました』
(アトリエ*ローゼンホルツの案内より)
徐々に人が集うようになり、今では様々な人たちがこの空間を活用してワークショップを行い、手作りの雑貨や焼き菓子、野菜、豆腐などを販売。この日は「n*cafe」さんの薬膳講座や、流山の「カナルファーム」さんのお野菜の販売が行われていました(n*cafeさんとカナルファームさんは、10月17日・18日にニッケコルトンプラザで行われる「工房からの風 craft in action」にも出店されます)。
集うようになったのは、本好きの人も然りです。
この日買い求めた岩波文庫『ビゴー日本素描画集』(清水勲編)。外国人の目でみた明治期の日本が、風刺画で描かれたその作品が目を引きますが、本とカバーの間になんと1987年のビゴーに関する新聞記事の切抜きが。
「亡くなった常連のおじいさんのクセなんです。
本を買うきっかけになった記事を挟み込んでいたんですね」
なんだか、おじいさんが新聞を片手にわくわくしながらこの文庫を書店で買い求めた姿が思い浮かぶようです。そのおじいさんの好奇心、本を楽しみにする気持ちを引き継いで、ゆっくりと頁をめくってみたいです。本って、本にまつわる人たちの気持ちが宿るから好きだなって思います。
ふと背後でご年配の常連さんが佐藤さんに
「佳い親孝行だよね」
と、書架の上に掲げられた絵を見上げていました。実はカフェに飾られている絵は佐藤さんのお母さまの絵なのです。
そして、佐藤さん手書きの『九月 アトリエ便り』には、サラ・バン・ブラナックの言葉が紹介されていました。
『成功には二種類ある。
世間的な成功と真の成功です。
幸せで充実した生活を送るためには
本物と、そうでないものを見分けなくては
いけません。
世間的成功と経済的成功を
目指すのは決して悪いことでは
ありません。私はこの瞑想録を
書くことでそれを求めています~
そして真の成功は誰にも
奪えないのです。』
誰にも奪えない成功がこのカフェに、訪れる人たちの笑顔とともに、少しづつ蓄積されていっているように感じました。