アーティストのEAT&ART TAROさんが来場者とともに、毎週日曜の午後に房総の食材を味わいながらピクニックを楽しんだりと、ユニークな食のアプローチを展開している「ロマネコンティ・ピクニック 美味しいの探し方」展。5月31日まで「市原湖畔美術館」で開催中ですが、それに先立って湖畔美術館を訪ねた際、ちょっと目を引く「食の佇まい」に出逢いました。
スタイリッシュな美術館に入ってすぐ右側にあるミュージアムショップ。その一角でにっこり笑うニワトリがいます・・・いえ、ニワトリのパッケージでした(笑)。
ウインクするニワトリのパッケージは、封を開けるのを一瞬躊躇ってしまうような可愛らしさで、その中には数種類のお菓子が。どれから食べようか、考えるとわくわくしてきます。
この「いちはらシーモッククッキー」「いちはらシーモックケーキ」。昨年、市原市で行われた芸術祭「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」の「いちはら名産品リ×ミックスプロジェクト」で誕生しました。ちょっとした手みやげにもよさそうでしょ?
私は「オレンジピール」のケーキが気に入りました。しっとりとした生地の食感に、弾けるようなオレンジピールの香り。柑橘の香りを携えた甘やかなケーキは、コーヒーとよく合います。
実はこのスイーツ。市原市にある「シーモック」の利用者のみなさんが作られています。NPO法人しいの木会が運営する通所施設で、身体、知的、精神、様々な障がいのある方が利用しています。館山自動車道・市原ICの近くにあるこのシーモックは、日中の活動の場を提供する生活介護のほか、就労支援B型作業所(雇用契約のない就労形態)として、菓子製造を行っています。その一環で手作りされているのが、「いちはらシーモッククッキー」「いちはらシーモックケーキ」なのです。
取材にあたって、ケーキやクッキーの製造過程を拝見させていただきましたが、みなさんが障がいの程度が異なるにも関わらず、製造班、パッケージング班といった具合にチームで作業され、その手際の良さに、そして楽しそうに作業されている様子に驚きました。
「ありがと~」
「おかえりなさ~い」
「お疲れさまでした~!」
配達から戻って来た利用者さんとのやり取りを見ていても、カツカツとPCに向かっている私の仕事とは比べ物にならないほどに、コミュニケーションが活発でとても明るい雰囲気です。
そんな工房を見つめながら、しいの木会の職員の一人、岡崎ルリ子さんは
「何ができるかを見つけること。そのできる事を広げていく」
その視点が重要だと強調します。
例えば、生地を並べたプレートをうまく運べなくても、カートの上に載せることで安定して運べるようになる。クッキー生地の並べ方が言葉では分からなくても、図にしてあげれば理解できるようになる。「いちはら名産品リ×ミックスプロジェクト」でパッケージデザインをされた風間重美さんも、ニワトリの表情を、敢えて「ハンコ」を使って表現しました。ハンコならば、より多くの障がいのあるひとたちが押す事ができるからです。そう、このデザインは、デザインがデザインされているだけでなく、商品の背景にあるあり方もデザインされているのです。
できないと諦めるのではなく、どうすればできるようになるか。行動や作業を細分化して、客観的に物事を見れば、できることが見えてくる。目の前の利用者さんの笑顔が、「あなたたちもそうでしょう?」と語りかけているような気がしてなりませんでした。
養護学校に通う子を持つ親たちが小規模作業所を作ったところからスタートしたシーモック。利用者の工賃(※)の向上と働き手の自立を目指して、お菓子の製造を行っていますが、保存料を使わないがゆえの販路開拓の難しさや、事業の多角化(菓子製造以外なら関われるという利用者さんもいらっしゃるそうです)など、まだまだ課題は多いのが現状です。ですが、ルリ子さんは「利用者さんが喜ぶ顔をみたい」と、活発に動き続けています。
取材もひと段落した頃、しいの木会の理事長の上田一郎さんが、「あそこはすごいねぇ」と、太鼓判を押す施設の話題になりました。それが木更津市の「hana」。実は3月20日、hanaの新たなカフェがオープンしたのです。後日、その新たなるカフェを訪ねてみました。
※工賃とは、工賃、賃金、給与、手当、賞与その他名称を問わず、事業者が利用者に支払う全てのものを指す。なお、千葉県における障がいのある方の月あたりの工賃は、全施設平均で16412.1円(出典『平成25年度各施設種別平均工賃一覧等』千葉県健康福祉部障害福祉課)