金魚のまちの、
金魚の本棚(笑)
関西本屋さんめぐりの二日目はクリスマスイブ。ケーキやイルミネーションが似合う日でしたが、思い切り「和」なまちへ飛び込みます。
JR関西本線・奈良駅の次の駅、大和郡山駅で下車します。この「大和郡山市」に足を運ぶのは、2年近く前に米粉パンの店「睦美」さんを訪ねて以来2回目。古い町並みに、ちょっと郊外にでれば畑が風景に加わる。そんな大和の風土のまっただなかにある落ち着いた佇まいが素敵なまちです。
豊臣家、松平家、本多家などの居城となった郡山城の城下町。そして、金魚養殖が盛んなまちとして知られ、その歴史は江戸時代に遡ります。
『享保9年(1724年)に柳澤吉里候が甲斐の国(山梨県)から大和郡山へ入部したときに始まると伝えられています』(大和郡山市webサイトより)
そんな歴史が風景に溶け込んだまちが大和郡山なのです。
まちを散策しつつ、そろそろランチを・・・。
ということで、前回睦美の店長さんから教えて頂いていた「KITCHEN WORK」を訪ねます(覚えてて良かった~)。
外観が面白くって、看板の感じといい、店頭にちょこんと佇む椅子の感じといい、君津市久留里市場のカフェ「旅ヲスル木」と雰囲気がそっくり(笑)。ひとり、にやにやしながら(←怪しい)中に入ります。
■KITCHEN WORK
webサイト → ●
白を基調とした静謐さの漂う空間。
陶器の急須に、そっとドライフラワーが生けてある。
そんな繊細さが、訪れる人の感受性を高めてくれます。
そんなピンとした心地良い緊張感を解(ほど)くかのように、時折常連さんが、
「後で生徒さん来るから」
といった具合に、声を掛けにやってきます。きっと近くの教室の先生なのでしょう。
以前、睦美を訪ねてここを知ったんです、と言うと、店主の方から
「睦美さんはご結婚されてお店を閉じられたんですよ」
ということで、今はイベント出店などが主のようです。かつてのお店でパンを買えないのは残念ですが、おかげさまで、こうしたお店とまた巡り会う事ができました。有り難いことです(しかも閲覧用に『房総カフェ』を一冊置いて頂きました。美味しい食事とともに、房総への旅へ、想いを巡らせてみてくださいね)。
さて、前置きの方が長くなってしまう勢いですが、目指すは本屋さんです。食後、その本屋さんのある柳町商店街へとやって来ました。が、ここもひとクセあるところでした。商店街のゲートの手前、ノスタルジックな商店街に似合う銭湯があるのですが、その隣りのガソリンスタンドがカフェになっちゃってます。
さらにその前にある電話ボックスが・・・
まさかの金魚BOXに!!
さすが金魚のまち、大和郡山。
このシュールな金魚BOXと商店街のノスタルジーという混沌とした空気感に、笑いが込み上げて来てしまいます(笑)
そんなこんなでようやく、商店街のゲートをくぐり、目指す本屋さん「とほん」へと辿り着きました。
■とほん
奈良県大和郡山市柳4-28
webサイト → ●
「ここは元々畳屋さんだったところなんです」
と解説してくれたのは、とほん店主の砂川昌広さん。その脇で、
「ポップコーン食べますかぁ?」
とストーブの上にポップコーンの銀皿を置くのが奥様の美保子さんです(なぜかポップコーン登場・笑)。
昌広さんは尼崎市出身。奥様は奈良出身で地元のタウン情報誌の編集などを手掛けていました。NPOに紹介してもらったことをきっかけに、現在の物件に辿り着き、2014年2月に「とほん」をオープンしました。
僅か4坪のちいさな本屋さんですが、全国各地のリトルプレスや雑貨のほか、金魚の飼育本や絵本『きんぎょのおつかい』(高部晴市 絵 与謝野晶子 文 架空社)、『金魚の恋』(坂崎千春 新潮社)など、金魚関連本やグッズがそろっているのはさすが、大和郡山の本屋さんです(笑)。
ちなみに坂崎千春さんはSuicaのペンギンでお馴染みですが、千葉県のキャラクター「チーバくん」の生みの親でもあるんですよ。坂崎さんも千葉県市川市のご出身です。
さらにもうひとつ千葉繋がりの本を見つけました。稲垣早苗さんの『手しごとを結ぶ庭』(アノニマスタジオ)が面陳されているじゃありませんか。市川市で毎年行われているクラフトフェア「工房からの風」のディレクターとして活躍される稲垣さんの、瑞々しい感性と作り手への熱い想いが、ささやかにここ奈良県から発信されている。なんだか嬉しくなりますね。
一方、とほんの奥にある一室はギャラリーとして活用されています。
私が訪ねた時はイラストレーター・絵本作家の高橋和枝さんの展覧会が行われていました。亡くなった愛する相手を想って描かれた詩『さよならのあとで』(詩 ヘンリー・スコット・ホランド 絵 高橋和枝 夏葉社刊)に収録されている高橋さんのイラストの原画展示と、掲載に至るまでの試行錯誤がにじみ出る、高橋さんのスケッチブックの展示です。
シンプルな絵のまわりを取り巻く空白には、一瞬、虚無感、せつなさに胸がざわざわしてきますが、詩とともにじっくり咀嚼するように見つめると、じわりとした滲み出るようなあたたかさが灯りはじめます。
「高橋さんの本を幾つか持っていたんです。
で、夏葉社でこの本が出て、絵を見たら、
なんと高橋さんじゃんってなって」
と笑う美保子さん。
その後、奈良、大阪、兵庫、長崎にある本屋さんが合同で行う巡回展にしてやろうということになったそうです。そんな、「好き」という純粋な気持ちと、繋がりの中で行われた企画展なのです。
「とほん」にはもう一つ、ユニークな繋がりがありました。
本棚の隣りに、なぜか「割り箸」が陳列されているのです。それも、箸袋のデザインがシブくてカッコいい。
「吉野っていう、桜の有名なところが奈良県にあるんですけど、
林業も盛んなんですね。
その吉野の地域おこし協力隊の方が、
この割り箸をデザインされたんです」
なんと、私と同じ地域おこし協力隊の方がデザインされたと。
美保子さんに詳しくお話を伺うと、吉野では現在2人の地域おこし協力隊員が吉野で活躍中。協力隊は総務省の制度で、都市部の人材を地方に最大で3年間派遣し、地域おこしに動くとともに、隊員自体の当該地域の定住を目指すもの・・・なのですが3年という有限性ある任期を見据え、2人で「ねじまき堂」という屋号と拠点をつくり、地域資源をプロダクトしていこうという試みが成されているのです(ううむ、見習わなければ!)。この箸は、丸い木材を四角く製材の際に出る端材を利用して作られたもの。『吉野林業全書シリーズ』という吉野林業を伝えるバイブル本の図を、橋袋のモチーフにしたものなのです。
さらに、2人の協力隊員は『ちょぼくブック 奈良県吉野町、木のまちの暮らし』(編集 ちょブック製作委員会 一般社団法人吉野ビジターズビューロー刊)という立派なフリーペーパーまで作られています。吉野貯木を紹介する本で、美保子さんも編集に携わっています。
『「人と本」「町と本」など、いろいろなものごとに「と、ほん」と繋がっていけたらと思い名づけました』
というコンセプトの「とほん」。
まさにその想いが、本を媒介して、多彩な繋がりを生み出していました。