『月刊ぐるっと千葉』1月号のいっぴんさんは、銚子市の「柏屋」を訪ねました
銚子電鉄の経営危機を救った事で、一躍その名を知られるようになった、銚子市のぬれ煎餅。港町銚子はヤマサやヒゲタに代表される醤油のまちでもあり、その醤油を活かしたぬれ煎餅が、銚子電鉄をはじめ、各メーカーで作られています。醤油が染み込み、「へにゃ」っとした食感は独特で、噛む力の弱いお年寄りの方々にも支持を得ています。
そのぬれ煎餅の元祖が、今回取材させていただいた「柏屋」の「ぬれせん」です。ぬれ煎餅は選別の過程で、醤油の染み込み過ぎていたものをおまけと頒布したのが始まりと云われています。昭和38年に柏屋が商品化しました。販売当初は「湿気っている」などのクレームが多く寄せられたそうですが、それでもその味を信じて作り続けました。
■柏屋
銚子市港町1758
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銚子第一漁港(銚子は第二、第三と、外川地区の漁港に分かれています。大きいんです)からすぐの路地裏をゆくと、民家の一角で幟が翻っています。たいへん分かりにくい場所ですが、落ち着いた佇まいです。
ガラスの引き戸を明けると、6年前に訪ねた時と変わらぬ姿がそこにありました。部屋中に漂う炭火の熱気がふわっと頬を撫で、銚子の醤油が甘やかに、香ばしく鼻腔をくすぐります。
柏屋を切り盛りする横山さん夫妻の視線の先にあるのは炭火の上にある煎餅生地。カチカチと音を立てて箸と網が共鳴し、ご夫妻の軍手をした手からカラカラと生地が囁く……まだ湯気を揺らめかせる生地を醤油に浸けた時、その生地焼きのリズムが一気に閉じ込められます。まったく無駄のない所作。今回私、写真を撮っていなかったので、ぜひ本誌でカメラマンの織本氏が撮影した情景をご覧戴ければと思います。
初めて食べるとかなりしょっぱいと感じますが、ちょっと苦めに淹れたお茶とともに味わうと、後を引くうまさで、ついついもう一枚と、袋に手を伸ばしてしまいます。
「焼くという作業自体は誰にでもできます。
ただ、ずっと続けるのが大変なんです」
と語る、ご主人の横山俊二さん。
昼食を挟みつつも毎日五時間半、ずっと同じ体勢です。
「人間様よりも、煎餅様の方が優先なので」
と筋トレをし、集中力や忍耐力を養い、身体を焼く姿勢に合わせてこられました。その想いの先は、常にいつもいらっしゃる常連さんにあるのは、語るまでもありません。ぜひ、現地へ一度足を運んで見て下さい。職人の姿が、ここにありますから。
※「ぬれせん」の名称は商標登録されています