温泉街の一角に、ひっそりと佇む古民家カフェへ
出西窯から、横に長い島根県を西へと進みます。
世界遺産に指定された石見銀山に立ち寄り、郡言堂でお買い物。
そうこうしているうちに徐々に日が傾いてきました。
おっと、あのカフェに行かなきゃ・・・
以前、市原市にあるカフェ「cafeのっぽ141」で見た、『自給自足』別冊のカフェ本。そこに、島根の古民家カフェが出ていました。
世界遺産センター駐車場を発ち、島根の内陸を、名峰・三瓶山を目指しながらひたすら駆け抜けます。途中、大田市川合町のあたりの田園風景があまりに美しく、つい車を止めてしまいます。
むせ返るような暖色を帯びた夕焼けに溶け込むように、高原の道を駆け抜けると、三瓶温泉の温泉街が現れます。こんな山間の地にも関わらず、ちょっとした町のような、民家の連なる集落になっているのが、千葉県人の感覚からするとなんだか不思議な気がしました。その鄙びた家並みの中に、目指すカフェがありました。
■DOMA CAFE GALLERY
島根県大田市三瓶町志学349
ドマカフェblog → ●
漆喰壁に、真っ赤な看板のアクセント。
カフェの空気感をゆるやかに感じながら、古民家の扉をゆっくりと開きます。
すると、ほの暗い空間に広い土間。
中の部屋の方に入ると板張りの床にソファが置かれています。
まずは、かなりな空腹状態だったため、挨拶もそこそこに食事を戴きました。
食後、ちょっと本を開いてみたり。
ソファと、深く清閑な空間に、そっと抱かれているかのよう。
ふと、気が付けば、外はすっかり暗くなっていました。
お会計をしようと、店主の岩谷俊輔さん、かなえさんご夫妻の元へ。すると、俊輔さんと、お互い移住者だということで話が盛り上がっていきました。
築100年ちょっとというドマカフェ。まず、2005年にギャラリーをオープン、翌年にカフェができドマカフェギャラリーとなりました。この山あいの地で9年経っているのです。
移住のきっかけは移住支援をする財団の紹介があったのが直接的なきっかけと、俊輔さんはいいます。
「牧場主が人材を募集してて、まずそこで働いて。
杉の苗植えをやって・・・」
と俊輔さんが振り返ると、
「桃やブドウ園の仕事もしたね」
と、かなえさんが隣りで微笑みます。
「その頃は辛かった。
けど繋がりができて、今も働いていたところからここに来てくれるね」
古民家の活用、というような話題になって、2階にご案内いただきました。
階段をのぼって手前は展示スペース、奥はプライベートな空間として使用されています。展示スペースとプライベート空間を繋ぐ廊下は、後で作られたものです。
「(ドマカフェは)初めはこのギャラリーだったんだよね」
と、展示空間を見つめながら、思い返すよう呟くかなえさん。
「映画の鑑賞会をやったり、
フィギュア部なんてやったね。
プライベートで帽子の会とか。
そのうち、パーティーなんかを仲間うちでやるようになって。
会議に使ってもらったこともあった。
ここは風通しの良いところだよね。
開拓者が多いからかな」
往事のことを懐かしそうに語る俊輔さん。
ですが、都会から移り住んだ俊輔さんにとって、この田舎の環境に戸惑うことも少なくなかったと打ち明けます。
「夜遊ぶところもない。
何もないこの環境に葛藤することもありました。
毎日同じことの繰り返し、というところが」
ですが、
「動いていれば人が寄ってきますよ」
とも。
この地を発つ時、別れ際に俊輔さんが呟いた言葉が、ふっと甦ってきました。
「自分の住み心地を良くすることからなんじゃないですかね」
あれもこれもしなかればいけないのではないか・・・見えない呪縛にとらわれていた過去。暮らす、という原点に立ち返ることで、自分から自分を開放する。移住の先輩の言葉に、胸がすっと軽くなった気がしました。