ハウスの中にお邪魔するとその見慣れぬ佇まいに思わずカメラマン一堂、歓声を挙げました。整然と並んだマンゴーの木。南房総の明るい日差しを浴びながら、マンゴーが幾つもぶら下がっています。
「1個で1キロ以上になるものもある」
と解説してくれたのは、ここ「森宅農園」の森宅俊男さん。熟したマンゴーは、人が側を通るだけで落下してしまうほど敏感なため、吊るしてやるのだそうです。この様子はぜひ、ぐるっと千葉本誌でご確認ください。
日本におけるマンゴーというと、沖縄のマンゴーや、宮崎県の「太陽のたまご」が有名ですが、実はここ館山市でも20年以上も前からマンゴーの栽培が行われています。そのパイオニアこそが森宅さんなのです。館山市の日照時間は沖縄の日照時間より長いこともあり、
「新しいことにチャレンジしたほうが面白みがある」
と、マンゴー栽培に着手しました。
マンゴー栽培の中でも水遣りが一番難しいと、森宅さんは打ち明けます。
「状況を見ながらやるの。
花咲く時は水分が必要。
一度にまとめて水をやるにではなく、
こまめにやる必要がある。
もう、毎日の作業。
1日に1回あげることもある」
また、どのくらいマンゴーに日光を浴びさせるか、その見極めにも神経を使うといいます。マンゴー素人の私なんかはついつい、南国のフルーツならじゃんじゃん光をあてさせればいいのでは?と単純に考えてしまうのですが、
「夏は遮光しないと、マンゴーが火傷しちゃう」
ことがあるそうです。火傷をすると色がだんだん黒くなってしまします。一方で、日照量が必要なのも事実。火傷しないぎりぎりのところまで日に当てる。この、いい塩梅を捉える力が、20年以上培ったプロの技なのです。
栽培において、さらに困ったことがありました。
摘果する実が極めて多いことです。
「ひと株に1000個付くこともある」
とその多さを強調するのは、森宅農園のイケメン研修生、梁寛樹さんです(すみません、写真はなしです・笑)。梁さんは私と同じく、総務省の制度「地域おこし協力隊」の隊員として、館山市に移住。館山市の農業の一端を担う若きホープとして、森宅農園で研修中です。そんな梁さんは
「ここまで自分で考えて(生産から販売まで)やってる農家さんは意外に少なくて。森宅さんは、栽培も工夫していろんな肥料を自分で試して。馴れ合いで市場出荷するのではなく、直に販売されてます。これからの農場なんだと思います」
と、森宅さんを尊敬の眼差しで見つめます。
果実の栽培では、より栄養分の行き渡った大きな果実を作るため、実の生育段階で選抜をします。そこで切り捨てられた未成熟の実が出てきてしまう訳です。特にマンゴーはその数が膨大に。コレ、なんとかならないの?という時に出逢ったのが、昨夏、館山市内に手作りジャム工房「館山フルーツ工房」をオープンさせた礒部克さんです。
「加えると、失うものが多いんです」
と、礒部さんはペクチン、保存料、香料を一切使用せず、素材の美味しさを活かしたジャムづくりを実践されています。さらに、素材の味をさらに生食感に近づけるために、二段階にわたる裏漉しが可能な「二段式パルパー・フィニッシャー」により滑らかさを生み、「蒸気二重釜」の導入により短時間加熱を実現。ジャムの色飛びも防ぎます。
加えてマンゴーならではの「渋み」も、独自の製法で除去することに成功(コレは企業ヒミツ!)。晴れてマンゴージャムが誕生するに至ったのです。
こうした技術や渋み抜きの試行錯誤を経た礒部さんですが、
「うちのジャムがほかのと違うのは、素材がいいからです」
と、素材あってこそというスタンスは揺るぎません。
そんな礒部さんは、収穫期にだぶつく農産物を冷凍技術を使い、無駄なく有効に活用できないかと、今後も見据えています。農園の丹誠込めた農産物を、おいしさを最大限昇華させることで、その想いとともに消費者に届けたい。その地域農業に懸ける信念が、爽やかな甘さの中に溶け込んでいるのです。