見える景色の向こう側を考えます
鴨川市は主に、北側の清澄山系と南側の嶺岡山系に挟まれた、加茂川の流域にマチが発達していますが、先日の土日は嶺岡山系の南側を訪ねました。山の斜面を伐り拓き、段々になったわずかな平地に田畑や民家が折り重なる集落の様子は、いつ見ても美しいものです。まだ、はざ掛けしている稲も残っていて、さながら里山を舞台にしたインスタレーションのようです。
今回やって来たのは「房総おいしい御醤油の会」でお馴染み、今西さんのお宅。お宅の佇まいやまわりの風景がまた素晴らしい。
今西さんには醤油仕込みで諸々アドバイスをいただいていますが、自給生活の傍ら様々な活動をされており、今回はご自宅を含めた交流空間「空と麦わら」で、二日間にわたって「竹テント製作体験WS IN安房鴨川」を開催。そう、イベントでお馴染みの出店のテントを、再生利用可能な竹で作ろうというものなのです。
初日は竹林整備、伐り出し、油抜き。二日目は竹テントの組み立てというスケジュールです。主催は上田さんと勝又さん、そして講師は竹テントマスター、トージバの神澤さんです!
■トージバ 竹林再生プロジェクト「バンブーファクトリー」
まずは、既に完成している竹テントを立て、イメージを掴みながらの解説。
では、さっそく近くにある竹林へ。
「番傘がさせる程度に伐採されているのがいいと言われています」
とのことですが、現場はかなり鬱蒼とした薮。
「暗いですね~」
との声が漏れます。
このように金具のサイズに合った竹を伐り出していきますが、邪魔な竹もあわせて伐り出していきます。
「房総は竹が多いですよね。
昔は使われていたんですけど、中国から安い竹が入ってきて。
竹は使えたら宝、使わなきゃ害。
里山って、伐って、利用して維持されてるよね。
ケモノたちといい間合いをとってきたんだよね」
今回は竹テントのための伐り出しですが、炭にするため、竹ひごをつくるためなど、様々なきっかけで山に入り、適度に伐っていくことで、自然、ケモノ、人との「いい間合い」が保たれます。ただ、今の経済ロジックの中ではその「きっかけ」に価値が置かれていない、そこが問題なのかもしれません。
竹は水分が多いとかびやすくなるなるため、水分量の少ない10月から12月くらいの間に伐るのがベスト。新月の時に刈るのが(引力の関係で)さらに良いそうです。孟宗竹だと、早くも1月くらいから水を吸い上げ始めているそう。
切り出し後は勝又さんお手製の昼食。おにぎりが最高に旨い!
うどんはここで栽培した小麦で作られたそうです。
ランチ後は、テントに必要な竹を長さと、口径のサイズごとに分けます。足りないサイズのものがあれば、追加で伐り出します。竹の先端の方は肉厚が薄く弱いので、できるだけ元(根元)の方を部材として活かします。
神澤さんよりいただいた資料によると、竹テントに必要な本数は27本。柱、梁(柱から柱にわたす軸)、棟木(屋根のてっぺん)、垂木(棟木から梁に伸びる屋根の骨組み)、頬杖(梁と柱に接続して強度をUPする)、真束(棟木を支える)、引っ張り棒(シートを飛ばないようにする)の、各部材で構成され、それぞれ口径と長さが異なります。
そしてこの竹を・・・なんとファイヤー!!
「油抜き」と呼ばれる作業で、カビや虫の発生を防ぐ大切な工程。本場の竹の産地だと曲がった竹の矯正も行うそうです。
竹林整備で出た余分な竹を熱源にして(有効活用ですね!)、次々と竹を炙っていきます。すると、このような感じで油が浮きあがってきます。
これを雑巾で拭き取ると・・・・・なんとこんなに綺麗になります。
当然、水分もかなり飛びます。
炙っている最中、シュー、と音を立てながら蒸発。この水蒸気の香りがタケノコのような甘やかな香りがするので驚きました。
最終的にはこのような状態になります(真竹と破竹が混ざっています)。
さて、一日目はここまで。
続いては二日目ですが、なんともお騒がせなことに、行きの道中で事故りました。自損ではありますが(泣)。たまたまWSのメンバーに自動車整備のプロの方がいらっしゃり、救出していただき、車はただいま入院中。代車をお借りしてなんとか途中から参加です。ご心配おかけしたみなさま本当にすみませんでした!そして緊張した身体をほぐしてくれた勝又さんの野菜カレーが身に染みました。写真撮るのも忘れてがっついてしまいました。本当にご馳走様です!
気を取り直してWSですが、二日目は竹に金具を取り付け組み立てる作業です。
金具は建築資材の鋼管用吊バンドと、ビニールハウスの部品のユニバーサルジョイント、ユニバーサルロングが基本です。いずれも既製品にちょっと手を加えて作った金具です。
「工業製品の単価って、
何百万とかまとまるとガンっと下がるんです。
資本力がものをいう仕組みになっちゃってるんです」
とおっしゃる神澤さん。
一度助成金を受けて、竹テントのための専用金具を開発されたそうですが、より低コストで手軽にできるように試行錯誤した結果、既製品をうまく使うことに行き着きました。今回の竹テントに限らず、大量生産・大量消費が前提のロジックでは、ものづくりのラインそのものに個人レベルでは入りにくい(私の昔いた出版の世界もそうでしたが、個人が出した本を取次=本の卸に通そうなんて話は雲を掴むような話。今でこそ電子書籍やwebで発信できますが)。そこをいかに個人、あるいはコミュニティレベルで自立していくかには、こうした知恵や工夫が必要なのかもしれません。
「みんなで一緒に、考えとかノウハウを共有してオープンソースにする」
という、WSの趣旨を語られていた神澤さんの言葉に思わず頷きました。
金具を装着し終えると、柱と梁がベースのまとまりが二つと、屋根の棟木をベースのまとまりの三つに、おおまかに分かれます。いずれも折り畳まれた状態、収納・持ち運びまでこの竹テントは考えられているのです。
外に出し、三つの部材のグループを金具で繋ぎ合わせ組み立てます。
そして遂に完成です!
「このテントがシーフェスタ(鴨川市のビッグイベント)の時に
並んでたら素敵ね」
と勝又さん。里山の再生がマチの景観をも作れたら本当に素敵ですね!
WSを通じてそのノウハウに留まらず、みなさんとお会いでき、竹から様々な考えるきっかけをいただきました。今回はすばらしい場を、本当にありがとうございました!