7月号のいっぴんさんは、袖ケ浦市にある坊ノ内養蜂園さんを訪ねました
■坊ノ内養蜂園 → ●
『風が波間を揺蕩うような、柔らかな翅の音。花の咲き終わったブルーベリー園を蜜蜂たちが曲線を描きながら飛び交う』……
……以前、鴨川市の山中で養蜂をやられている「蜂人舎」さんをいっぴんさんで取材させていただいたことがありましたが、ブルーベリー園での採蜜現場にお邪魔するのは始めての体験でした。もちろん、その蜂蜜を味わうのも。
木更津市は千葉県のなかで最もブルーベリーの生産が盛んで、無農薬栽培も広く行われています。その中のひとつ、「フルーツ街道夢農場」では、袖ケ浦にある養蜂園「坊ノ内養蜂園」のミツバチを、今年から受粉用に導入。そのミツバチたちの活動の結果をお裾分けいただく形で、ブルーベリーの蜂蜜を採取するに至ったのです。そのお味は……ぜひぐるっと千葉誌面をご覧下さい。
カメラマン氏が
「ミツバチって、こう近づいてみるとかわいいっすね!」
と歓声を挙げると
「『かわいい』。
そういわれるのが一番嬉しいですね」
と、笑う坊ノ内養蜂園の鈴木一さん。
かつて金融、医療系の仕事に携わっていましたが、今のような暮らしではなく「自然の中でなんとかできないか」という想いを抱いていました。そんな時、養蜂との出逢い、40歳という節目の時を迎え、そして東日本大震災が発生。
「色々な想いがピタッときた」
と、会社を辞める事を決意します。
その後、養蜂を始めしばらくした時、発達障がい・知的障がいのある子たちを支援する「特定非営利活動法人はぁもにぃ」との出逢いがありました。はぁもにぃは、ぐるっと千葉4月号のいっぴんさんでご紹介しました「プリンセスぷりん」を作られているNPOです。
「長浜理事長と意見が一致して」
と、はぁもにぃの「養蜂部」が誕生。障がいのある子たちの受け入れが始まりました。養蜂部メンバーと坊ノ内養蜂園が共同でつくり上げた蜂蜜「はぁもにぃ はにぃシロップ」は、はぁもにぃの運営するコミュニティカフェ「♭」などで販売されています。個人的には「からすざんしょう」のはにぃシロップがお気に入り。「蜂蜜なのにこんなにすぅーっと爽やかな香りがするの!?」とその味わいに驚きました。
■「はぁもにぃ プリンセスぷりん」 → ●
■「はぁもにぃ はにぃシロップ」 → ●
また、養蜂のほか、畑づくりも養蜂部メンバーの活動として行われるようになりました。畑には蜜源の確保、という意味合いもあります。
取材時は、養蜂部メンバーが遠心分離器による採蜜活動にチャレンジ。濃厚な蜂蜜が採取できたのです。そして、この日は畑の畝立ても行いました。
「まずは盛るところから」
「掘って、上げる。掘って、上げる……」
「おーし、もうちょい。頑張れ。
おー上手、できた!」
「畝は綺麗に作って下さいね。
見た目が綺麗ってことは大事、均一な作物を作るにはね」
メンバーに向けたアドバイス、エールを送る一さん。
午後には立派な畝ができあがっていたのでした。
「すごい丁寧でしょ。でも、一から十やるのは無理です。リスク、将来予測はできない」
「でもね、前、ソルゴーを撒いたのね。ひと粒5センチ間隔で。これね、一般の素人がやると、こうパラパラパラ~って撒きながら進んで行くの。彼らは違う。一粒ひと粒丁寧にこうやって撒いていくの。丁寧、かつ継続してやる。『やめよう、お昼だから』って言ってもずっとやってる」
「安心するんだね。イレギュラーなことがないことが彼らにとっての安心になるんです。この前も巻いていたタオルが気が付いたらなくなっていて、ないないってパニック状態になったんです。結局、服をすり抜けて足元にあるのが分かって落ち着いた。ハプニングに対して繊細なんです。やるべきこと、自分に与えられたことに対して、すごく繊細に、実直に取り組むんです」
そう語る一さん。
その「安心」のある場を社会にいかに作り出せるか。
「『変化』は健常者がサポートして、適材適所にできれば」
と、「変化と安定のバランス」を一さんは強調します。養蜂の世界でも、農業の世界でもそれが必要であると。
たまたま、同時期に、いすみ市でブラウンズフィールドを主宰されている写真家、エバレット・ブラウンさんを取材させていただきましたが、エバレットさんも生活の豊かさには
「安定した変化ができること」
と語られていたのが非常に印象深いです(身体も締めたり緩めたりすること。凝り固まりすぎると病気になってしまうともおっしゃられていました)。
さらに、半農半Xの提唱者である塩見直紀さんは、やまと言葉における「たね(種)」の意味を、次のように説明されていて興味深いところです。
「『たね』の『た』は高く伸びて広がりゆくという意味があるそうです。『ね』は根源、命の根っこ。種的な生き方と、半農半X的な生き方はイコールです」
加えて、現在は「た」か「ね」、どちらかに偏りすぎる傾向があると危惧されていました。こう考えると、「安定」と「変化」という視座は、社会の根元の部分に繋がる、深い意味を持っているのかもしれません。
「暮らしと安心感……俺も昔は外車乗ってたり、不安だったんだよね。健常者だって特性を持っていて生きづらさを感じているんだよ。気が利かないとかいわれたりね(笑)。その代表格が障がい者。レッテルを貼られて。でも、俺もそうだよな」
と振り返る一さん。そして思い出したように、栃木県にあるココ・ファーム・ワイナリーで働いていたある障がい者のエピソードを語りはじめました。
「農園で一日中缶を鳴らしていた人がいたそうなんです。注意してもやめようとしない。それで、園主に相談したら『風を呼んでいるから放っておけ』と。暫くしたら鳥の被害から農園が守られていたことに気が付くんです。きっとその障がい者は自然を感じていたんです。自然の摂理の中で役割を見い出したんです。普通の人の目からは意味ないように見えるけど、必要があって。存在に意味があるんです」
自然はちゃんと「安定」と「変化」のバランスがとれている。障がいを持つ人たちはピュアにそれを感じ、読み取ることができる。では、人間社会の「安定」と「変化」のバランスは?より自然に近い生業と、工業的な作業の連続である仕事と、どちらが中庸のとれた働き方なのだろう?その問いかけを静かに発しているのが、「はぁもにぃ はにぃシロップ」に他ならないのです。
「彼らは凄い助っ人ですよ」
と胸を張る一さん。メンバーと一さんのチャレンジはまだまだ始まったばかりですが、今後の展開が楽しみです。