勝浦市で暮らしていると、鴨川、大多喜、いすみは買い物などで利用するお店があるため、片道20キロ圏内が「生活圏」というイメージですが、それ以上遠方になると、「ドライブ」「プチ旅」といった感覚になります。先月下旬、久しぶりに鴨川市を飛び越えて、南房総市を訪ねました。すでに千倉では、太平洋をバックにひと足早い春の彩りがきらきらと冬の日差しを浴びて輝いています。
そのお花畑を駆け抜け、房総半島の南端、野島崎灯台も過ぎると、やがて静かな砂浜が車窓に流れゆきます。滝口、根本の海岸線。いつもは、柔和な表情を、静かに湛えるその砂浜。行き交う船舶の向こうに、ぼうっと伊豆大島が浮かぶ・・・まさにそこは房総半島の最果てなのです。今日は、果ての余韻に浸るのも許されぬ程の強風吹き荒れる嵐の日。砂混じりのビンタを受けまいと、素早くお店の中に入ります。
根本海岸を眼前に臨む、開放感抜群のカフェ「ビーチスタイルストア 波音日和」。穏やかな天候だったらテラス席で、コーヒーと潮風の香りを燻らせてみたいですね。
「一本陸側の道を越えちゃうと電柱があるんですが、
ここからだと電柱が視界にはいらないんですよ」
と、店主のTonmanさん。カウンターから窓越しに根本のビーチを見つめていると、風景に「混じり気」がなく、窓の向こうに吸い込まれていきそうな感覚になります。
一方、店内には館山市の作陶家、横倉悟さんなど、房総をはじめとするアーティストの作品がセレクトされています。2階はギャラリーになっていて、この日はちょうど館山市在住で美術教師をされている市川真理子さんのかわいらしいイラストの数々が展示されていました。そんな、数々の房総の「面白い匂い」が集まった愉しいカフェですが、私の目を引いたのが、カフェの店名にもなっているリトルプレス『波音日和』です。
以前、館山市のカフェ「TSUMUGI」さんで見かけたことがあったのですが、「ビーチサイドマガジン」というコンセプトのもと、九十九里、外房、南房総、そして湘南のサーファー、アーティスト、カフェなどが綴られています。房総半島をもっとひと括りの文化圏、カルチャーとして捉えられないか、とは常々私も思っているところですので、「ビーチサイド」という軸はナルホドなと、ページをめくりながら頷いたのでした。この日は別冊の『海辺のスローカフェ』の改訂版を購入しました。
「波音パニーニ」やスイーツを頬張りながら、Tonmanさんと房総のカルチャーについて語り合えるのが何よりも愉しいひとときです。なにもない根本のビーチ。だからこそ、深く向き合える。気持ちをリセットしたい時に、また訪ねてみたい海辺のカフェです。