『房総コーヒー 旅と、日常。』発刊によせて

納品。そして、送り届けます。

コーヒーは嗜好品と言われるだけあって、媒体としてのその守備範囲は広く、自家焙煎珈琲店のガイドから淹れ方、豆の産地、豆のグレード、或いは何々ウェーブなどなど、様々な視点からまとめられたガイド本、解説本が、巷ではすでに発行されています。ですが、千葉・房総という切り口から編集されたものを見かけることがありませんでした。

 

一方で、海や里山、ベッドタウンや古い町並みなど、多彩な表情を持つ千葉・房総という土地で繰り広げられるコーヒーあるシーンの数々からは、この地に暮らす人たちの多様性ある生き方が垣間見えます。私はコーヒーのウンチクよりも「そこ」を編集したかった。そうすることで、「こう淹れるべき」「この店にいくべし」という呪縛から解き放たれて、自由にコーヒーの愉しさ、美味しさと触れ合えると考えました。そして、その素朴な「いいな」という感覚から、じわりと房総に生きる人たちの魅力、房総の風土の素晴らしさが伝わるのだと思ったのです。

 

本書では、もちろんコーヒーを自家焙煎される方々を紹介させていただいていますがそれだけではなく、無店舗の小商いスタイルでコーヒーを販売される方、野点珈琲を楽しまれる方、移住して器を作りながらコーヒー焙煎される陶芸家などにご登場いただきました。また、丸善津田沼店さんのご協力を得てオススメのコーヒー本をご紹介したり、安房暮らしの研究所の所長さんにご登場いただき、南房総を語り合う「放談」企画も実現しました。

 

千葉・房総には、東京を起点とした都市型ライフスタイルの方もいれば、千葉市以南・以東の海辺や里山に移住して新たな暮らしを始める人たちもいます。海だけとってみても、銚子の海と南房総の海、東京湾とではまるで表情が異なり、それぞれに美しいシーンを魅せてくれます。多彩な風土と多彩な人々が織りなす暮らしと生業の佇まいこそが、房総の魅力なのです。

 

そんな千葉県だからこそ、コーヒーに対しても多様でありたかった。自由さがあってほしかった。コーヒーという要素をきっかけに「人と風土の多様性」を伝えることができれば、ひとつの「房総の名刺がわりの本」になるのではないかと、そんな思いを込めて編集したのが今回の『房総コーヒー』なのです。

 

本のタイトルですが、『房総のパン』の時と同様、20日間にわたる西日本一周の旅で立ち寄った岡山の「451BOOKS」店主の根木さんと半分冗談ながら?本のタイトル名を考察。コーヒーの本を出すならタイトルはどうですかね?と訪ねると、「『房総コーヒー』でしょ」と即答。そんなわけでシンプルに『房総コーヒー』としました。

 

今回はこれまでの出版してきた本と違い、表紙は思い切ってモノクロにしました。どうやったらコーヒー店やカフェに違和感なくこの本が溶け込めるだろうと考えた末、色を取る、という決断をしました。主役はあくまでも、掲載させていただいている方々、実際のプレイヤーのみなさまですので。

 

さらにデザイン面でも一新しまして、縦書きから横書きにしました。おかげでずっと弊誌を読んでくれているみなさまの中には「逆から」ページをめくられる方も多く・・・ややこしくさせてすみませんです(笑)。そうそう、ご紹介しているお店のなかで、「うちは一切テキストを載せないでほしい」とおっしゃるところがありました(さすがにタイトル・店名・webアドレスだけは載せましたが。どこかは本の中を探してみてくださいね)。聞けば「できるだけ先入観を持たないでいらしてほしいから」とのことで、なるほどなぁ、こういうスタンスもありだよなぁと首を縦に振りました。思えばこの「テキストなし」の経験が表紙の発想に繋がったのかもしれません。

 

発行してから本日に至るまでずっと、取材させていただいた方々や早くもご注文いただいたお店さんなどに本をお届けに回っておりました。そのなかでやっぱり「親に贈ります」とのコメント。これは本当に嬉しいです。「贈り物」になるもの。私は電子書籍との最大の感覚の違いはここなのかなと思っています。今後も、読者のみなさまの声の一つ一つを原動力に「房総の名刺」となるような本を目指して活動していきたいと思います。取材にご協力いただいたみなさま、本に込めた熱量を送り届けてくださるみなさま、そして読者のみなさまに改めて御礼申し上げます。

 

 

平成29年11月1日